災害への食の備えを進める:早期の復興に向けて

新潟大学教員によるコラム"知見と生活のあいだ"

教員コラム(六花) 2024.02.20
藤村忍 農学部 教授

近年、地震、水害、雪害等が多く、災害多発時代を乗り越えるために「食の備え」が重要です。

意外にも阪神淡路大震災等での食の経験は十分に継承されておらず、2004年の新潟県中越地震の発生時に、全国有数の食品加工地帯である新潟の食関係者が多く被災したことにより、産学官の連携での研究?開発や、具体的な食づくりが継続的に進み出しました。その後、災害食づくりが全国的な動きとなり、2013年に有識者により日本災害食学会が設立(本部:東京)。2023年に「災害食の事典」を発刊しました。

災害食の事典(日本災害食学会監修、朝倉書店、2023年9月発刊)

食の備えの変化

家庭等での食品備蓄は「最低3日分から7日分×人数分」が推奨されています(農水省)。公的備蓄は、避難所の全避難者に対して十分な食を長期提供できないことが公表され、各個人の備えが求められています。

普段食べ慣れた食品を多めに買い備えるローリングストックは災害対応力を大幅にアップさせます。

さらに災害専用食品の活用が有効です。従来は一般成人向けの食品が中心でしたが、被災地には高齢者、乳幼児、制限食を必要とする方、食物アレルギーの方等もいます。そこで安全で要配慮者を意識した食の備えの推進を目的に「日本災害食認証制度」が設けられ現在、全国で239食品が認証され活用されています。

これらの研究や開発の過程で、エネルギー供給の他に、被災地の老若男女が食べられるメニューの多様性、栄養素欠乏者向けのサプリメント、リラックス効果のあるデザートの有効性も示されています。

要配慮者対策は進み「日本災害食認証食品」の63%は食物アレルギーに配慮した食品です。遅れていた乳児対策では近年、液体ミルクが開発され、熱源やお湯がなくとも対応可能な商品が出ました。食品関係者の努力で状況は変化しています。

「日本災害食」認証マーク(一般社団法人日本災害食学会)

災害食の事典とは?

食の備えをさらに進めるため本書は、災害食の定義、食と災害の種類(地震、水害、豪雪、土砂災害等)、食の備え方、栄養?機能、防災教育、衛生問題、海外の事例、事業継続等の内容から構成されています。全国の約70名が携わり、新潟大学からは総合大学の特色を生かして6名が本書に協力しました。総論他(別府茂?新潟大学大学院客員教授、筆者)、新潟県中越地震と食(松井克浩?人文学部長)、口腔ケアと誤嚥性肺炎(井上誠?歯学部長)、海外事例紹介(榛沢和彦?大学院医歯学総合研究科特任教授)、避難所(田村圭子?危機管理センター教授)について、食品、医療、防災等の専門家が垣根を越えて協力しています。

災害に備える

備えあれば憂いなし。食の備えには、被災経験者や食に詳しい方が、「当たり前」と思わずに情報を伝えていくことが重要です。海外の災害に生かすべく、細やかな日本の食対策の国際提案も進んでいます。

近年の災害食、非常食の事例

プロフィール

藤村忍

農学部 教授

地域連携フードサイエンスセンター事務局を担当。専門は栄養学。アミノ酸代謝を基に食肉の機能性の強化を研究。また災害食など食品の美味しさや機能の研究に取り組む。

研究者総覧

※記事の内容、プロフィール等は2024年1月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第46号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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