人工知能(AI)技術を応用し高精度放射線治療の発展に貢献する
AIを活用し検証作業を最適化 どこでも受けられる治療にするために
エックス線などを照射することにより、がん細胞を死滅させる放射線療法。手術(外科療法)や抗がん剤(化学療法)と並ぶ、がんの三大標準治療の一つだ。宇都宮悟准教授は、物理工学の知見を医療に応用し、医学物理学的な観点から研究に取り組む。
「コンピューター技術の発展と治療装置の高性能化によって飛躍的に進歩してきた放射線治療ですが、一方で技術の複雑化や現場の業務量の増大を招いています。精度の高い診療を担保するには放射線治療の適切な品質保証と管理が必要不可欠。私は人工知能(AI)技術を活用したアプローチを試みています」
放射線治療では患者へ照射する前に、誤差なく患部をきちんと捉えられるか、線量分布を検証する作業が行われる。医学物理士として医療現場に携わったこともある宇都宮准教授は、人為的に発生させたエラー(誤差)を含む大量のデータをAIに学習させ、異常発生時における原因の早期解明を可能にした。線量分布の測定データからパターンを抽出することで効率化を図り、かつ精度を高めた。
「これまではエラーを検知しても、原因を特定するまでに多くの時間と労力を費やしていました。AIは短時間で膨大なデータ処理ができるだけでなく、人間のように分析することもできます。モデルの学習を重ねることでミスが少なくなり精度も高まるAI の特性を生かすことで、より効果的な対応策を導き出せるようになりました」
現在は複数のAIソリューションを組み合わせたシステムの構築を進めている。現場の放射線技師や医学物理士と連携を図りながら、AI技術の導入促進による将来的な検証作業の自動化を見据える。
「放射線治療には多くの医療従事者が必要となるため、大きな病院でしか行えないという課題がありますが、AI導入が人手不足の解消につながり、放射線治療を受診できる場が増えることも期待できます」
医療分野でのAI導入は、今後ますます加速していくことが予想される。検証における「精度の担保」と「自動化」の実現に向けた取組は、医療を受ける側と提供する側、両者に貢献する重要な研究だ。
前立腺に対する強度変調放射線治療(IMRT)の模式図
研究で使用している、画像のパターンを認識する「radiomics」の概念図
プロフィール
素顔
宇都宮准教授の趣味はランニング。先日は福井県で行われた大会に参加し、ハーフマラソンを完走した。「走っていると良いアイデアが浮かんだり、忘れていたことを思い出したり、頭の中が活性化されるような気がします」
※記事の内容、プロフィール等は2023年1月当時のものです。
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掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第43号にも掲載されています。