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他都市の災害の対応経験を追体験する仕組み
リアルな体験をデジタルに置き換える災害?対応シナリオの空間的展開ツールの開発
新潟大学では、新潟?福島豪雨(2004年)や中越(2004年)?中越沖(2007年)地震の経験から、危機への対応?防止について、平時より検討を行い、関係部署と連絡?調整する組織として、「危機管理本部」を常時設置し、五十嵐?旭町の両キャンパスに1名ずつ専任教員を配置している。
「私は、地震?津波、豪雪等の自然災害への対応を社会科学的側面から研究しています。危機管理室においては、危機管理計画(2007年)等の計画策定や訓練実施を行っています」
田村圭子教授が危機管理?災害研究に取り組んだきっかけは、自身の故郷が阪神淡路大震災で大きな被害を受けたことに端を発する。大学卒業後、社会人経験を経て「災害時に自分にできることは何か」との思いから、大学院へ入学。研究者の道に進んだ。
災害発生時に問題となるのが、対応する行政職員が具体的に災害対応の業務イメージを持っていないことだ。田村教授は災害対応DXなどのICT技術を活用し、他の自治体の災害対応を別の地域で、訓練として経験できるデジタルツールの試行版を開発。2021年には大阪府北部地震(2018年)による大阪府茨木市のデータを集積し、神奈川県川崎市で同規模の地震が起きたときの災害?被害シナリオを作成した。地震被害と茨木市の実際の対応を、川崎市の地理空間上に展開?可視化。川崎市職員の忙しさが当時の茨木市の職員の忙しさと同程度になるようチューニングし、訓練を実施した。被害想定に基づく従来シナリオと違い、他自治体の実際の災害対応記録から構築したシナリオを使った訓練は、職員の対応力や経験の継承につながると同時に、茨木市とは都市の規模や特徴が異なる川崎市ならではの課題も明らかにした。
「過去の災害が、自分の自治体で空間的に展開されることで、リアルな仮想体験が可能に。これまでは、実災害の被害や対応の記録を残すことで、被災自治体自身が次の災害への反省点を見つけてきました。ICT技術『デジタルツイン』(現実の世界にあるものを仮想空間に再現する技術)が進んだ現在では、その記録を活用すれば、全国の自治体において、追体験することが技術的に可能です。本仕組みの全国展開を目指しています」(官民研究開発投資拡大プログラム?PRISMにおける研究プロジェクト)
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プロフィール
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素顔
田村教授が訓練時や被災地での研究活動に携帯するのが、スマホの斜めがけストラップ。スピーカーホンにすれば両手が自由なままで、歩きながら会話ができて便利だとか。
※記事の内容、プロフィール等は2022年5月当時のものです。
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この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第40号にも掲載されています。