
市街地の小さな公園が支える生物多様性
生物多様性の消失は、世界経済フォーラムによる「グローバルリスク報告書2025年版」において長期リスクの上位に位置づけられるなど、地球規模の危機として国際的に認知されています。その原因のひとつと言われるのが都市化の進行です。都市化は気温の上昇(ヒートアイランド効果)、化学汚染、生息地の縮小と分断化といった環境変化をもたらし、生物多様性を減少させると考えられています。
一方、都市域には空き地、道路脇の植生帯、河川敷、公園といった大小の緑地が存在します。そこには都市環境に適応した生き物たちが息づいており、絶滅危惧種など保全上重要な種も確認されています。しかし、都市の生物多様性の保全において、このような身近な緑地、とくに小規模な緑地が果たす役割についてはよく分かっていません。例えば新潟市内には敷地面積1ヘクタール以下の小さな公園が1300箇所以上も分布し、都市緑地面積の約15%を占めていますが、そこに棲む生き物たちの多様性については充分に明らかにされていませんでした。
私達の研究グループでは新潟市内の小規模都市公園32箇所を対象として、公園における生物多様性を調査しました。地表を徘徊する節足動物類を対象とした調査の結果、ゴミムシ類64種、クモ類70種、アリ類23種が確認され、公園が意外にも豊かな種多様性を支えていることが分かりました。生物多様性と都市化との関係を分析したところ、周辺の都市化度(建物や舗装面の面積率)が高い公園ほどゴミムシ類の種数が少ない傾向が認められ、都市化による生息地の分断化により多様性が減少した可能性が示されました。また、公園内の環境条件の影響を調べたところ、土壌湿度、落葉などの堆積量、公園周縁部の舗装率などが多様性に影響を及ぼしていることが分かりました。すなわち、公園の節足動物類を保全するためには定期的な草刈りにより開けた環境を維持すること、落ち葉などを(部分的にでも)公園内に残すこと、周縁部の舗装率を下げることなどが有効な管理法と言えそうです。

市街地にある小規模公園は、市民に憩いの場を提供するだけでなく、生物多様性保全の観点からも重要な役割を果たしており、都市計画において無視できないことが研究結果から示唆されました。身近な公園を散策する際には、このような小さな緑地が支えている生き物たちにも是非、目を向けていただければと思います。
プロフィール

小路晋作
専門は生態学。農林業や都市化などヒトの活動による環境変化が昆虫類の生物多様性に及ぼす影響について新潟県各地やケニア西部で研究。農業害虫の管理に関する研究にも取り組む。
※記事の内容、プロフィール等は2025年10月当時のものです。
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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第53号にも掲載されています。


