効果的な予防接種教育に関する研究/Vaccine Hesitancyへのヘルスコミュニケーション
予防接種の有効性を正しく発信する環境を整え、快適な予防医療システムの構築を目指す
WHO(世界保健機関)が2019年に発表した「世界の健康に対する10の脅威」に挙げられた「Vaccine Hesitancy(ワクチン忌避)」。保護者が子どもにワクチンを接種させないケースが世界的に広がりを見せ、近年大きな問題になっている。齋藤あや准教授は、接種をためらう阻害要因が何なのかを明らかにし、問題改善や予防接種教育、意思決定支援などを行う。
「米国滞在時に、予防接種の考え方や接種システムに共感しました。日本におけるVaccine Hesitancyの動きは他の先進国と比べても深刻で、その要因となっているのがワクチンに対する信頼の欠如です。私は『いつ?誰が?どんな内容で情報を提供したか』が大きく影響していると考え、子どもの予防接種に関する情報提供の在り方について、被接種者と医療従事者の双方へのアプローチを進めています」
研究では、医療従事者が初めて予防接種に関して保護者に説明するタイミングが、「①妊娠中 ②出産直後 ③接種間近(生後1か月前後)」で、接種への態度に差異が生じるか検証を行い、情報提供する際の時期の重要性を提唱。別の調査では、産科や小児科といった所属機関や、医師、保健師、看護師などの職種間において保護者への説明内容に差が生じていることを明らかにした。
「①や②のように早い時期に保護者に情報を提供することで、接種への態度が肯定的に変容する傾向が見られ、③と比較して接種率も上昇しました。また、情報格差の背景には、職種ごとの立場や情報収集のリソースの違いが関係していることも分かりました。こうした結果も踏まえ、接種状況を左右させる情報格差を是正することが、Vaccine Hesitancyの克服にとって重要になると考えています」
現在は医療機関や職種を問わない、予防接種における統一した教育プログラムの構築を進めており、同時に、幼少期のヘルスリテラシー教育にも目を向ける。
「日本はヘルスリテラシーの教育が十分でなく、このこともVaccine Hesitancyに影響しています。被接種者も利益とリスクをしっかりと把握した上で意思決定を行う必要があり、そのためには幼少期の保健教育が大切になってくると思います。医療従事者への教育、標準化された接種システム構築、ヘルスリテラシー向上の実現に向けてこれからも研究に励んでいきたいです」
看護師として患者さんに日々接していた時代の自身の経験が研究の出発点になっているという齋藤准教授。健康長寿社会を実現していくカギになるであろう予防接種教育は、医療の在り方そのものを見つめ直すきっかけにもなると期待したい。
特別専門員として参画したJPS(日本小児科学会)-AAP(米国小児科学会)Immunization Education Projectによる日本版Vaccine Information Statementsの作成。保護者のための予防接種教育の資料の一例
妊娠中、出産直後、接種直前での予防接種教育による知識、態度、信念の変化
プロフィール
素顔
尊敬する恩師?日野原重明先生の著書。齋藤准教授にとって、105歳の生涯を現役の医師としてまっとうした日野原先生の存在は非常に大きいとのこと。医療人として、ひとりの人間として、本書の中には大切にしたい言葉がたくさんあるそうです。
※記事の内容、プロフィール等は2021年11月当時のものです。
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掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第38号にも掲載されています。