小型魚類を解析し、ヒトのパーキンソン病の発症要因を解析

ミトコンドリアDNAの漏出が起こすパーキンソン病態

研究(六花) 2021.11.26
松井秀彰 脳研究所 教授

その数は千億とも言われるヒトの脳内にある神経細胞。その役割を一つひとつ明らかにすることは難しいですが、ミニチュア版の脳が存在すればそこから類推し正しい結論を導きだすことは可能です。松井秀彰教授は小型魚類の中枢神経を研究することで、ヒトの脳内で起きている現象、特に疾患病態を明らかにしていきます。

「人類は魚類を経て進化しており、ほとんどの脳?神経の構造や機能は既に魚の段階から存在します。さらにほとんどのヒトの病気や障害は魚でも再現できます。魚で脳?神経の働きおよび病態を解明し、得られた知見を脳研究所に蓄積されたヒトの脳試料と照らし合わせることで、これまで難しかったヒト神経精神疾患の治療や理解につなげていきます」

その研究の焦点の一つは、パーキンソン病です。パーキンソン病は運動障害やそれ以外の多彩な症状を呈する神経難病の一つで、その病態にはいまだに不明な点が多く残されています。松井教授は、パーキンソン病などの加齢がリスクとなる疾患は背景に老化があることで発症しやすくなると考え、わずか数ヶ月で老化するアフリカメダカを解析。この魚が加齢のみでドパミン神経の変性、αシヌクレインの蓄積といったヒトパーキンソン病に類似の表現型を呈することが分かりました。

「これまで主にメダカやゼブラフィッシュを用いて薬物の添加や遺伝子改変により様々な遺伝性のパーキンソン病モデルを作製してきました。遺伝性ではない一般的なパーキンソン病の病態の理解にはこのアフリカメダカが非常に重要なヒントを教えてくれます」

パーキンソン病の病態にミトコンドリア機能障害やリソソーム機能障害が関わっていることは以前より示唆されてきましたが、その詳細なメカニズムは分かっていませんでした。松井教授の最近の研究では、リソソーム中で分解から逃れたミトコンドリア由来の細胞質DNAが、細胞毒性および神経変性を誘導し、パーキンソン病の原因になる可能性が明らかとなりました。

「これはミトコンドリアDNAの細胞質への漏出がパーキンソン病の神経変性の重要な原因となる可能性を示唆しています。細胞質に漏出したミトコンドリアDNAの分解、あるいはそのミトコンドリアDNAセンサーIFI16の阻害が、パーキンソン病の治療につながる可能性があります」

松井教授の研究室では他にも加齢によって発症が増加する様々な難治性疾患、神経難病の原因解明にも取り組んでいます。小型魚類は発生段階では透明で顕微鏡観察に適しており、小児疾患や発達障害の研究にも適しています。

「パーキンソン病の研究をさらに進めるとともに、それ以外の疾患や障害でも小型魚類とヒト試料を比較することで、未知の病態の解明に取り組んでいきます」

小型魚類の脳神経系。左が吻側、右が尾側。青は細胞核、マゼンダはドパミン神経とノルアドレナリン神経。

アフリカメダカは加齢に伴いαシヌクレインの蓄積やドパミン神経変性といったパーキンソン病に似た表現型を呈する。

プロフィール

松井秀彰

脳研究所 教授

博士(医学)。専門は神経科学。魚で神経難病やその他の疾患病態を解明し、得られた知見をヒト疾患の治療や理解につなげる研究を進めている。

研究者総覧

素顔

自身は18時前、研究室のメンバーのほとんどはもっと早く帰宅するという松井教授の研究室。日々、熱心に研究に取り組んでいますが、家族との時間もとても大切にしている先生で、子煩悩な三人娘のお父さんです。

※記事の内容、プロフィール等は2021年11月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学統合報告書2021にも掲載されています。

新潟大学統合報告書2021

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