堆積物による日本海沿岸の津波履歴の解明
地層に残る痕跡から過去の津波を特定し未来の予測と防災対策につなげる
季刊広報誌「六花」第37号掲載記事(2021年7月末発行)
世界中を震撼させた2011年の東北地方太平洋沖地震。日本列島の広い範囲に甚大な被害をもたらした原因のひとつが地震によって発生した津波だった。卜部厚志教授は「津波堆積物」に着目し、歴史上記録が存在していない、過去の津波による浸水範囲や発生時期の解明に取り組んでいる。
「津波堆積物とは津波によって海水と同時に運ばれた砂泥や石が堆積したものであり、いわば地層中に保存された過去の津波痕跡です。堆積物の分布を探ったり、砂の層に含まれる成分などを解析することで、津波が発生した年代判定やそれがどの程度の規模だったかを推測することができます」
2013年に発足した「日本海地震?津波調査プロジェクト」に参加し、奥尻島や佐渡島をはじめ北海道から九州までの日本海沿岸の各地域でボーリング調査、露頭調査を実施。代表的な地点において約8000年~9000年前までの地層を採取し、確度の高い津波堆積物の認定と解析によって津波履歴を明らかにしてきた。
「地震活動がいつ発生したのか、そしてそれはどの断層がもたらしどれくらいの頻度で活動しているのか、それらを紐解いていくための材料となるのが津波堆積物です。日本海側には津波や強震動を引き起こす活断層が多数分布していて、例えば『この場所は9000年間で24回津波履歴が認められる』という具合に、過去のことが分かればそこから多くの事実や可能性が見出せます。断層について探究するメンバーや、津波の規模を数値化する専門家とも連携を図りながら、震源断層?津波波源モデルの構築を目指しています」
これらの研究結果や成果は、ハザードマップ作成や建築物新設?更新の際の基準など、既に多くのシーンで役立てられている。今後は洪水堆積物の調査も視野に入れ、地質学の観点から社会に貢献していきたいと語る卜部教授。現在は自身の研究の傍ら防災に関する情報発信や防災教育の普及にも力を注いでいる。
「我々人類は自然環境と上手に付き合っていかなければなりません。地震や津波をはじめとする自然災害を防ぐことは難しいですが、正しい知識を持っていればリスクは確実に軽減できます。研究を通して蓄積した知見を、あらゆるツールやコンテンツを活用しながら皆さんに分かりやすくアウトプットしていければと考えています」
海岸露頭での津波堆積物調査
東北地方太平洋沖地震後に現地で採取した津波堆積物
露出した地層の表面やボーリングなどで採取した堆積物の表面をはぎ取って保存。分析に使用する
プロフィール
※記事の内容、プロフィール等は2021年7月当時のものです。
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掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第37号にも掲載されています。