ラボ実験で環境経済学の仮説を検証する
経済学の視点から環境問題を解決する方法を提案する
季刊広報誌「六花」第37号掲載記事(2021年7月末発行)
環境経済学は環境問題を扱う経済学の一分野で、経済学の中では比較的新しいジャンルだ。日本では1960年代、経済活動が活発に行われた結果、水質汚染や大気汚染が深刻化し、環境問題が注目されるようになった。
伊藤伸幸准教授は「閉鎖性水域の水質汚染」などの環境問題をテーマに、学生を被験者として仮想的な投資やオークションに参加させ、その行動を分析するラボ実験を行っている。これまでの経済学では統計データや調査データの分析から経済現象を理解してきたが、近年、ラボ実験による研究は重要視されている。
「経済学とは社会全体の福祉をより高めるために、どのような仕組みが必要かを考えることです。例えば、汚染や公害で健康被害を受ける人が増えると福祉は低下します。また、経済活動を規制して生産性が下がっても福祉は低下します。社会全体で最も福祉が高くなるレベルで環境被害と生産性をバランスさせ、最小のコストで環境問題を解決するにはどうすればよいか、経済学の知見から環境問題の解決策を考えるのが環境経済学です」
環境経済学には、環境(被害)の価値を金銭単位で評価する「環境評価」という手法があり、GDP(国内総生産)を生み出す一方で環境破壊や見えない福祉がどのくらい失われているかを金額という同じ単位で比較?分析することができる。
「環境問題に関わる分野には、他に環境倫理学や環境社会学などがあります。私が環境経済学を選択したのは、数値の比較によって “これが最適である” という1つの答えを出すことができると考えたからです。もともと私が環境経済学に興味を持ったきっかけは、高校3年生の夏休みに新潟に遊びに訪れたとき。海底の石に堆積したヘドロを見て環境問題に興味を持ち、調べていくなかで、問題を解決するための制度が足りないのではと考えたのです。政策に関して科学的な視点から提言できる環境経済学を学びたいと思い、今に至ります」
研究を積み重ねて低コストで効率の良い政策を提示できても、それが実際に導入されるには政治が大きく関わり、社会で実現されるには時間がかかる。
「環境経済学は社会と政治のための設計図を作るような役割です。政策提言に説得力を持たせるためにも今後はラボ実験だけでなく、現実の社会を対象としたフィールド実験にも取り組んでいきたいと思います」
実験データを使って異なる制度間でオークションの結果にどのような違いが出るかを検証する
経済科学部にある経済調査実験室では仮想的なオークションなどのラボ実験が実施できるようになっている
経済学の理論モデルが想定している状況に近い環境を作り出すラボ実験の様子
プロフィール
※記事の内容、プロフィール等は2021年7月当時のものです。
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掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第37号にも掲載されています。