
多体問題と有効場の理論-2兆度のプラズマから絶対零度の量子液体まで-
「有効場の理論」を用いて広い領域で理論物理学を研究する
物質の構造や性質を理論的に研究する理論物理学は、「原子物理」「原子核物理」「素粒子物理」など、それぞれの専門領域内で取り組む研究者が多いという。本郷優准教授は、そのような従来の枠にとらわれず、「有効場の理論」と呼ばれる理論的枠組みを用いて、理論物理学の広い領域をカバーする研究を進めている。
「『有効場の理論』は理論物理学の中でも、特に場の量子論と呼ばれる研究分野において使われる用語ですが、現代物理学すべての分野の基礎を支える基本的な世界観を与えていると思います。具体的には、短距離で起こる現象と長距離で起こる現象の『スケール』が分かれていることに注目することで、多様な物理現象に適用可能な理論的枠組みを与えます。わたしは、この有効場の理論という考え方に基づいて、2兆度のプラズマからほぼ絶対零度の量子液体のふるまいまで、分野にとらわれない研究をこれまで行ってきました」
2022年にはドイツ?ハイデンベルク大学の藤井啓資研究員?Tilman Enss教授の国際共同研究グループと、極低温の量子流体中に浮かべられた粒子間に、長距離ではファンデルワールス力と呼ばれる分子間力と同じ力が働くことを理論計算から明らかにした。
「レーザー技術によって絶対零度近くまで冷却された原子集団は、量子状態を高精度に制御可能な系として近年注目されており、ミクロな世界における『力』を調べる上でも格好の舞台となっています。本研究では、極低温で実現する原子超流動体中の不純物粒子に、量子揺らぎに起因した普遍的な長距離力が作用することが新たに分かりました。この新たに見出した力からどのような特徴的な現象?構造が生まれるかなど、興味深い課題は多くあります」
さらに、超流動体中の不純物は固体中の電子や高温プラズマ中の重い粒子と類似した側面も持っているため、本研究で得られた力の理論と極低温の原子気体の実験結果とを組み合わせていくことで他分野における物理系の理解に貢献する可能性も期待できる。
極低温の原子気体(青色の粒子)の超流動体中に浮かべられた不純物粒子(赤色の粒子)の間に働く長距離力の模式図。2つの超流動フォノン(超流動体中の音波)を同時に交換することで分子間力に似た引力が生じる。
プロフィール

本郷優
博士(理学)。専門は素粒子?原子核理論、非平衡物理学。流体力学と、最先端の原子論と考えられる基本的な微視的な理論である場の量子論との間のギャップを埋めるために研究を進める。新潟大学若手教員スイングバイ?プログラム採用教員(2期)
読書が趣味という本郷准教授。ミステリー小説を読むことが多いという。
「謎を読み解いていくのが物理学に近い感じがして、つい読んでしまいます」
※記事の内容、プロフィール等は2025年6月当時のものです。
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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第52号にも掲載されています。