
中高生向け科学人材育成の取組
~N-Step新潟/STELLAプログラム~
新潟大学では、「新潟ジュニアドクター育成塾」(2019年度~2023年度)の実績を元に、2024年度から中学生向けの教育プログラム「自然と人を愛し、共生を実現する未来の科学人材育成プログラム新潟(N-Step新潟)」を開始した。
また、同じく2024年度に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「次世代科学技術チャレンジプログラム(STELLAプログラム)」に採択され、「自然と人の共生に向け知の革新を創る基礎科学人材育成」と題し、高校生を対象とした次世代科学人材育成にも取り組んでいる。
両プログラムの目的と内容、込められた想いを紹介する。
次世代科学人材を育成する2つの理数プログラム
新潟大学では、2019?2023年度の5年間、小中学生を対象とした理数系教育プログラム「新潟ジュニアドクター育成塾」を実施した。プログラムには延べ242名が参加。自然と人の共生実現に貢献する科学人材を育成してきた。その取組が高く評価され、公益財団法人中谷財団「次世代理系人材育成プログラム助成」事業として、中学生向けの理数系教育プログラム「N-Step 新潟(自然と人を愛し、共生を実現する未来の科学人材育成プログラム新潟)」を2024?2028年度の5か年計画で展開している。
また同時に、高校生を対象とした「にいがた”知の革新”STELLAプログラム」も展開している。こちらは理数系学生の育成や高大連携を目指す事業で、卓越した意欲?能力を有する地域の高校生を募集?選抜し、科学技術イノベーションを牽引する次世代の科学人材を育成する。いずれもプログラムでの学びを通して、様々な分野の発展や地球的課題の解決に寄与する”大学の研究者”や”企業の開発者”の輩出に貢献するのが目的だ。両プログラムを担当する高澤栄一理学部長と、近藤貴明特任助手に、その経緯と展望を聞いた。
(左)近藤貴明 理学部特任助手、(右)高澤栄一 理学部長
「新潟大学では、これまで小中学生を対象に展開してきた『新潟ジュニアドクター育成塾』の次のステップとして、中学生に向けて『N-Step新潟』、高校生に向けて『STELLAプログラム』を実施し、中高を繋ぎ一体的に学ぶ独自の制度を構築しました。学力が飛躍的に伸びる時期に、理系分野の最先端の知識を先取りして学ぶことで、さらなる成長が期待できます」(高澤理学部長)
科学技術の進展は凄まじく、そのスピードに対応する科学人材は社会から強く求められている。中高生の学びに包括的に取り組むことで、将来、大学?大学院を目指す意欲と熱意のある未来の科学人材を育成する。
技術進展に対応する科学人材は社会から強く求められている
自然や社会課題への思考力を中学生に身に付けさせる
中高生向けの「N-Step 新潟」は、1年目のチャレンジングステージと2年目のジャンピングステージの2段階からなるプログラム体系。2024年度のチャレンジングステージは、書類審査の結果、20名が選抜された。
「チャレンジングステージのリテラシー講座では、理学?数学の学力、データを収集?分析し論理的な思考のもと結論を導く能力、科学技術を応用する能力、自然と共生するために必要な社会科学的な感覚を身に付けます。また、自然と人講座では、地域独特の文化や、自然と社会、自然と人の課題を考える思考力や発想力を鍛えることを目的にしています」(近藤特任助手)


続く2年目のジャンピングステージは、書類審査の結果、11名が選抜された。うち4名は前年度からの継続であった。受講生は研究者とのマッチング面談を経て、指導担当教員の下、個別課題の研究活動をし、冬季に成果発表を行う。2つのステージによる、講義や実験、県内各地のフィールド訪問を通して、「知識技能」「データから意味を見出す力」「思考力?表現力」「国際感覚」「自然共生社会への共感力」の5つの力を育成する。


思考力や発想力を鍛え県内の他大学や研究機関との共同実施体制も特徴
世界の課題解決に貢献する理学力を高校生に
高校生向けの「にいがた”知の革新”STELLAプログラム」のキーワードは、自然と人の共生だ。
「新潟は豊かな自然に囲まれる一方で災害も多く、生活インフラへ甚大な被害を及ぼした自然災害も多々あります。社会的課題も視野に入れ、自然と共生する持続的社会の実現に向けた課題や解決方法を、高校生たちに考えてもらうことが目的です。『自然現象に強い関心があり、科学者として活躍したい』『実験や物作りが好きで、大学や研究機関などで働きたい』『将来、地域や世界で活躍したい』という強い思いを持つ高校生を募集しています。大学入学前の高校生時点で、実践を踏まえた多角的なプログラムを受けることにより、一足早く科学研究の基盤となる知識や技能を習得し、Agency(主体性)の理念を備えた研究者を目指すことができるのです」(高澤理学部長)


プログラムは短期間のエントリーコース(定員100人)、8日間のマスターコース(定員40人)、ドクターコース(定員15人)の3段階からなり、次のコースへ進む際には選抜が行われる。
最初のエントリーコースは自然科学の深淵に触れる体験コースで、科学への意欲があり理数能力の高い高校生を発掘する。宇宙物理、数学、ブラックホール撮影、アントレプレナーシップ、AI活用入門などの講座体験を通して、学びの動機づけを行う。
書類選抜を経た次のマスターコースでは、Agency(主体性)の涵養と課題発見力の育成が目標だ。科学、自然共生、AI?RRI(責任ある研究とイノベーション)、グローバル展開力の各講座群での学びを通して、最先端科学の知識と技能に加え、科学と社会の関係の理解を目指し、自身の課題を見出す。
最終段階はドクターコース。課題研究計画書の内容で評価する一次選抜、面接で評価する二次選抜で受講者が決まり、その後、研究室メンターとの面談で研究室がマッチングされる。教員の指導を受けながら、発表会に向けて課題研究活動を進めていく。
「受講生の更なる能力伸長を促すため、学会発表や論文投稿などのアウトプットを通して、Agency(主体性)の実践に繋げます。また、インド理科大学院大学での英語による研究紹介や交流も予定しています。基礎科学の高い能力に加えて、AI技術の活用力、社会的責任感、グローバル展開力を備えた研究者を育てます」(近藤特任助手)
新潟大学の世界展開力強化事業と連携し、インド?太平洋地域の留学生と交流を深める
多角的なプログラムで一足早く知識や技能を習得Agencyを備えた研究者を育てる
一体的で相乗効果のある理数教育を
中学生や高校生に向けて、義務教育では学べない専門性の高い学びや、将来選択における決定的な機会を提供する上で、新潟大学が置かれる地理的な優位性は非常に大きい。越後山脈や日本海、固有種が多く生息する佐渡、日本の主要な地溝帯フォッサマグナなど特殊な自然環境が身近にあり、恵まれたフィールドを活かした研究成果は、過去の大きな自然災害からのレジリエンスに繋がっている。中高生向けの教育において、自然と人の共生を掲げている大学は全国的に見ても珍しい。10学部と個性的な研究所を有する総合大学のリソースに加え、国内外の大学や研究機関と連携したプログラムも大きな特長だ。
「N-StepとSTELLAプログラムは、中学生と高校生を一体的に見て運営しています。優秀な科学人材を育てるためには長いスパンで考え、最終的に大学院への進学を目指してもらうことが大切です。新潟大学独自の取組として、それぞれ単独ではなく、異なる2つの助成金事業を一体的に運用し、理数教育の相乗効果を上げていく点が、他の大学にはない大きなアピールポイントです」(近藤特任助手)
受講生たちは所属する高校の枠を超えて、アカデミックライティングに挑戦する
自然と人の共生を掲げ理系人材として自然や社会の展望を考える道筋を確立する
総合的な科学を課題解決力として社会に還元
社会変革を引き起こす力を育てるために重要なのはAgency(主体性)と目標設定だ。そこでは理学力に加え、研究倫理やアントレプレナー、語学力、研究開発の現場で必要なマナーや姿勢を身に付けることも求められる。それらの能力が総合的な科学を社会に還元するための課題解決力になる。N-Stepは芽生えや気付きの機会を提供し、STELLAプログラムでさらに知識や研究力の下地となる体験を積み重ねていく。
「中高の期間を通して、科学人材として自然や社会の展望を考える道筋を確立するのが目的ですが、プロセスを経て彼らが将来に選ぶ職業は必ずしも科学者でなくても良いのだと思います。ここで身に付ける知識は非常に汎用力が高いものだと考えています。社会貢献に必要な対象は時代の流れや要請に左右されますし、それに合わせてプログラムの内容も変化していくでしょう」(高澤理学部長)
2つのプログラムは連結する両輪として、新潟大学における人材育成の新たな伝統を築いていく。
教育学部英語教育専修の学生と中学生で、英会話によるグループワークに挑戦する
関連リンク
- STELLAプログラム
- N-Step新潟(自然と人を愛し、共生を実現する未来の科学人材育成プログラム新潟)
- N-Step新潟(自然と人を愛し、共生を実現する未来の科学人材育成プログラム新潟)篮球比分直播6年度の様子
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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第52号にも掲載されています。