東アジア産水生植物の分類学的研究と植物標本の利活用に関する研究

「生き物の歴史そのもの」を記録する標本の価値を次世代に伝える

研究(六花) 2025.04.24
志賀隆 教育学部 准教授

日本国内の湿地は、開墾?開拓?開発の影響で減少し続けており、1970年と比較すると現在の面積は40~50%にまで縮小している。特に低湿地は人間の暮らしの影響を受けやすく、独自の環境が失われつつある。湿地に欠かせない水草も、農薬の影響などで現存する約半分が絶滅危惧種に指定されるほど厳しい状況にある。志賀隆准教授は、水生植物の進化や分類、多様性の歴史を研究する。

「日本は固有種が多い島国です。四季があり、標高差のある複雑な環境を持つ多様性のホットスポットになっています。日本の水生植物のルーツを追うと、ロシアや中国、モンゴルなど東アジアにたどり着きます。つまり、日本の生態系を理解するには、周辺地域の研究も欠かせません」

その過程で新種を発見することもある。2006年にはシモツケコウホネ、2015年にはサイコクヒメコウホネを新種として記載。これまでに自身や自身が関わる研究グループで6種の新種を発表。現在も記載途中の種が多数ある。

志賀准教授の研究において植物標本とその管理は非常に重要な役割を果たす。新潟大学における植物標本の歴史は、前身である師範学校時代までさかのぼるが、現在学内に保管されている標本は教育学部に残るもののみ。2012年からは志賀准教授が管理を担当している。

「標本庫には、様々な時代や地域、季節に収集された植物標本が収められており、100年前の標本も存在します。これらは採集された時期?場所に、その植物がどのように生きていたかを示す証拠となるものです」

標本の価値は、単なるデータの蓄積とは異なる。自然そのもののアーカイブとしての役割を果たし、過去の環境や生物相を直接証明する資料となる。

「正しく作製?管理された標本の中には種子が生きているものもあり、保存状態によっては発芽させることも可能です。また、標本があればDNA解析を含む最新の研究にも活用できます。さらに、標本には理科教育学的な価値もあります。標本に接して、自然環境の断片を直に観察することで、学びの幅が広がります」

標本の管理と活用を通じて、水生植物の多様性を守り、次世代へとつなげていくことを目指す。研究の先には「将来的に新潟に自然史博物館をつくり、地域の自然を学べる環境を整えたい」というビジョンもあるという。

サイコクヒメコウホネを新種記載した模式標本(タイプ標本)。模式標本とは、ある生物が新種として発表された時に、その種を定義する根拠となった標本。生物の分類において最も重要な標本であり、大切に保管されている。

プロフィール

志賀隆

教育学部 准教授

博士(理学)。専門は植物分類学。大阪市立自然史博物館の学芸員を経て現職。水辺の植物の多様性を調べ、保全していくための研究を進める。

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※記事の内容、プロフィール等は2025年3月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第51号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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