
腎臓病に対する「メガリン創薬」
メガリンにフォーカスした新しい薬を開発し臨床応用を通じて腎臓病の克服に貢献する
腎臓の機能が慢性的に低下している状態を指す慢性腎臓病。日本では20歳以上の約7人に1人が罹患しており、新たな国民病と言われている。斎藤亮彦特任教授は、腎臓内に約100万個あるネフロンの近位尿細管に発現する「メガリン」に着目し、生体機能分子を臨床医学に応用するためのトランスレーショナルリサーチ(臨床への橋渡し研究)を進める。
「メガリンは、糸球体でろ過されたタンパク質や薬剤などの代謝に関わる受容体分子です。体に必要な物質を再吸収する一方、抗がん剤や抗菌剤といった腎障害を誘発する様々な物質も腎臓に取り込み、それが腎機能の低下につながっています。腎毒性物質の『入り口』分子であるメガリンの構造や物質を取り込むメカニズムを理解し、メガリンを標的とした慢性腎臓病および急性腎障害の創薬研究に取り組んでいます」
東京大学や横浜市立大学との共同研究では、メガリンの立体構造と物質の結合様式を解析。腎毒性物質がいかに結合するのかを明らかにした。
「クライオ電子顕微鏡法を通して、メガリンがどのように形成されていて結合ポケットがどうなっているのか、そして毒性物質がどこで結合しうるのかを解明しました。また、AIを活用した調査なども行なっています。腎臓の物質代謝機能における基本的な仕組みは分かってきたので、腎臓病を引き起こすメガリンと腎毒性物質の結合の阻害や抑制を促す薬の開発につなげていければと考えています」
斎藤特任教授が掲げるメガリン創薬は、①メガリン機能抑制薬、②メガリン拮抗薬、③尿中メガリン検査薬の3種。研究と並行して臨床現場に立ち、患者と向き合いながら新しい診断?予防?治療法の開発を目指す。
「糖尿病やメタボリックシンドロ―ムとの関連が深い腎臓病は、近年患者数が増加しています。自覚症状がほとんど見られず、心血管疾患の合併率が高いほか、放っておくと透析や腎移植が必要になる場合もあり大きな問題です。現在、治験に向けて準備を進めている拮抗薬がありますが、我々は予防も兼ねたより有効なメガリン創薬を目指しています。これからもトランスレーショナルリサーチに注力し、研究成果を臨床で実用化していきたいです」
アメリカの大学への留学中に初めてメガリンのクローニングに成功して以来、研究と臨床の両方に勤しんできた斎藤特任教授が推進するメガリン創薬は、腎臓を守っていく新たな産物となることだろう。
プロフィール

斎藤亮彦
博士(医学)。専門は腎臓内科学、糖尿病学。メガリン分子を用いた腎臓病の新しい診断?治療法の開発および実用化を目指し、トランスレーショナルリサーチに取り組む。
素顔
MLBで活躍する大谷翔平選手らに注目しているという齋藤特任教授。アメリカに留学した若き日の自分のことも思い出すのだそう。
「大谷選手らが活躍する姿を見ると、自分も研究を頑張ろうと思えます。」
※記事の内容、プロフィール等は2025年3月時点のものです。
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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第51号にも掲載されています。