新たな価値を生み出す高度情報専門人材の育成

特集 2024.12.18

近年、デジタル化の加速度的な進展や脱炭素の世界的な潮流の中、それらをけん引する高度情報専門人材の育成が求められている。
新潟大学では、2025年度から高度情報専門人材の育成に関する取組を強化する。
具体的には、工学部工学科知能情報システムプログラムの増員、創生学部へのDX共創コースの設置、大学院自然科学研究科への情報社会デザイン科学コースの設置等が予定されている。
高度情報専門人材の育成における大学としての意気込みや、2学部1研究科それぞれの具体的な取組を特集する。

DX時代に応える人材育成で新たな価値を生む

近年、超スマート社会やデータ駆動型社会の実現に向けて、産業や社会のあり方が大きく変化していく中、AIやビッグデータ、IoT 等のDX技術を活用し、新たな価値を創出できる人材が求められている。特に、日本では、少子高齢化が急激に進行し、労働生産人口の減少が進み、社会的課題の解決、生産性の向上を図るため、あらゆる産業で高度情報専門人材を必要としている。

このような高度情報専門人材の社会的な需要の高まりを受けて、新潟大学では、2025年度から工学部、創生学部、大学院自然科学研究科の入学定員を増員し、教育課程の整備を行う。新潟大学における人材育成の方向性と狙いについて牛木辰男学長に聞いた。

学長 牛木辰男学長 牛木辰男

「新潟大学では、これまでも工学部や大学院自然科学研究科において、先端的情報技術を身に付けた人材を輩出してきました。また、全学共同教育研究組織であるビッグデータアクティベーション研究センターを中心として、体系的に数理?データサイエンスを学べる教育基盤を整備し、全学部でデータサイエンス教育の必修化、メジャー?マイナー制におけるマイナープログラムを開講するなど、力を入れてきました。次世代を担う研究者の育成を目指し、中高生を対象にしたプロジェクトも開講しています」

これらの取組に加え、2025年度から高度情報専門人材の育成をさらに進展させる。工学部では入学定員を5人増員し、先端的情報技術の修得をする知能情報システムプログラムに女子枠を設置する。創生学部は入学定員を5人増員。現在の創生学修課程は、創生学修コースとDX共創コースの2コース制となる。そのうちDX共創コースは、デジタル技術を基盤として、融合的視野で課題の発見?解決ができる人材を養成する。文系?理系の学生を問わず実践的な能力を身に付けることが特長だ。

「さらに、これらのプログラムとコースからの大学院課程への進学先として、大学院自然科学研究科博士前期課程の社会システム工学コースと情報工学コースを統合し、電気情報工学専攻に情報社会デザイン科学コースを新設します」

入学定員は15人増員となり、高度な情報通信、データサイエンス、デジタル技術、デジタルトランスフォーメーションを学んだ上で、自ら課題分析?目標設定ができ、様々な観点で検討を加え、解決方法を見出せる人材を育成する。

2025年度以降の高度情報人材の育成の説明図2025年度以降の高度情報人材の育成

デジタル分野の人材は社会の発展に必要不可欠である

教育と人材育成は常に変化し続け文理融合が進む

2学部1研究科の入学定員増にはどのような背景や狙いがあるのか。澤村明理事?副学長に聞いた。

理事[評価?教員組織担当]?副学長 澤村明理事[評価?教員組織担当]?副学長 澤村明

「デジタル分野の人材は社会の発展には必要不可欠ですが、日本は諸外国に比べ、理工系分野に進学する学生の割合が低い状況にあり、脱炭素化など成長分野であるデジタル?グリーンに寄与する人材が大きく不足しています。経済産業省によると、2030年には先端IT人材が、54.5万人も不足するという試算もあります」

このような先端IT人材の需要への対応と継続的な人材確保を目的として、文部科学省は、大学の情報系分野の体制強化を支援するため「大学?高専機能強化支援事業」を設け、新潟大学は、同事業の「支援2 高度情報専門人材の確保に向けた機能強化に係る支援」に採択された。情報系分野の研究科や大学院における体制強化を図る取組を対象とするもので、学部段階からの体制強化を行うことも可能となっている。新潟大学はこの支援を受けて、先述した工学部、創生学部、大学院自然科学研究科の情報系分野の入学定員の増員とコースの再編、さらには実務家教員の配置等による教育体制の充実を図る。「これからの社会の要請に応える人材には、新しい発想ができる能力が問われる」と続ける。

「大学での教育と人材育成は常に変化し続けていかなければなりません。そういう意味で、創生学部はディシプリン(学問分野)型ではない学部として、新潟大学の新しい理念を体現しています。いずれは大学全体が創生学部のような文理融合となり、技術的な発想ができる人材を育てる必要があります」

多様な価値観でソフトなものづくりに貢献し社会課題を解決する

女子学生の増加が工学部に研究活力と多様な価値観を

続いて各学部?研究科が目指す構想と育成する人材像、今後の具体的な展開について話を聞いた。

工学部長 鈴木孝昌工学部長 鈴木孝昌

工学部工学科の知能情報システムプログラムは5名を女子枠として増員する。工学部における女子学生の割合は全学と比較して少ないのが現状だ。鈴木孝昌工学部長によれば、女子学生にとって研究者としての将来像を想起するロールモデルが身近に少なく、キャリアに対する不安を抱く一因になっているという。

「女子学生の増加により工学部内に多様な価値観がもたらされることで教育研究の場に活力が生まれることが見込まれます。工学分野の女性進出を促進し、多様な観点で社会や産業界の抱える課題を見極め、新しい社会価値の創造が行える技術者?研究者を養成し、社会へ輩出していきます」

従来の工学分野はハードウェア領域を中心とした技術開発やものづくりが主流だったが、今後はソフトウェアをベースとするソフトなものづくりによってDXを推進し、社会課題の解決や社会変革を実現できる人材が必要とされている。

オープンキャンパスで行われた工学部知能情報システムプログラムの模擬授業に多くの高校生が参加している様子オープンキャンパスで行われた工学部知能情報システムプログラムの模擬授業には、多くの高校生が参加した

昨今の社会問題に着目
日常を改革する新たなアプローチを

DXで日常を改革
創生学部は融合的視野を重視

創生学部創生学修課程にはDX共創コースが新設される。データサイエンス?AI等の技術を基盤とし、融合的視野で課題発見や解決ができる人材を養成するコースだ。創生学部では、昨今の社会のデジタル化やそれに伴う社会問題に注目する学生が多いという。「DX共創コース設置の背景には、学生のリアルな志向に適したカリキュラム構想がありました」と中村隆志創生学部長は話す。

創生学部長 中村隆志創生学部長 中村隆志

「DX共創コースは文理融合プログラムで、従来と比較して、より技術者育成を前提にした教育を行います。新潟大学におけるほぼ全ての分野や他学部の幅広い発想に触れることで、一見DXと関係のなさそうな地域に特化したテーマやアイデアの中からも、暮らしと日常を改革する新しいアプローチができる人材を育てます」

AIやデータサイエンスを現実社会で活用する能力を身に付ける

未来志向のデザイン力を涵養する大学院プログラム

大学院自然科学研究科の博士前期課程では、既存の電気情報工学専攻情報工学コースと材料生産システム専攻社会システム工学コースの既存2コースを統合し、入学定員を15名増員。情報社会デザイン科学コースを新設する。履修モデルは、データサイエンティスト型とデジタルトランスフォーマー型の2つ。未来志向のデザイン力を涵養する大学院プログラムとして、高度な情報通信、データサイエンス、デジタル技術、デジタルトランスフォーメーションを学ぶ。

大学院自然科学研究科長 松尾正之大学院自然科学研究科長 松尾正之

「高度な情報通信技術、データサイエンス等を学んだ上で、課題分析から解決方法までを自身で見出すだけでなく、コミュニケーション能力等も併せて育成するトランスファラブル科目も設け、社会的課題に対して融合的な視点で解決できる人材を育成します」と松尾正之大学院自然科学研究科長。

ビジネス課題の解決手法として情報やAI、データサイエンスの知識やスキルを学び、それらを現実社会で活用する能力を身に付けた人材を育てるのが大きな目標だ。情報社会デザイン科学コースでは、工学部卒業生だけでなく、創生学部卒業生、さらには他大学や社会人学生等の受け入れも想定している。

先端的な情報と情報技術を使って新しい社会をデザインする

情報と技術を同時に学び新しい力を導く

これらの学びにおいては、学生には目指すべき社会の姿や研究の到達点を描き、その道筋を未来から現在にさかのぼって考えるバックキャスティング的手法をもって課題を設定し、その解決に向けて活動できる主体性が求められる。未知の課題や未解決の問題に対して独自の研究を深めていく「知の深化」と、解決すべき社会課題に対し関係者と連携して解決策を探していく「知の探索」を併せ持つのが新潟大学が目指すべき人材像だ。再び牛木辰男学長に聞いた。

牛木学長

「それはまさに自らのアイデアを先端的な情報技術を用いて社会実装するスキルであり、新しいものを導く力だと思います。情報と情報技術を使ってどういう社会をデザインできるのか。社会課題の解決のためには常に複数の要素を組み合わせて考える必要があります。大学は考える力を学ぶ場所であり、知識だけを学ぶ場所ではありません。今後の社会はますます大学による人材育成を必要としてくるでしょう。新潟大学は総合大学であることをいかし、融合型人材の育成で特色と存在感を出していきます。自治体や企業等で急務となっている、デジタル分野の人材育成についても、大学院で社会人学生や科目等履修生として受け入れ、先端情報技術を学んでいただくことで、地域のデジタル人材の確保に寄与したいと考えています」

オープンキャンパスのプログラミング教室の様子オープンキャンパスのプログラミング教室には多くの高校生が訪れ、関心の高さが窺われた
洋ナシの外観等級判定にAIを活用する研究の様子洋ナシの外観等級判定にAIを活用する研究なども進められている

※記事の内容、プロフィール等は2024年12月時点のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第50号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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