膜透過ペプチドを用いたドラッグデリバリーの開発

高分子細胞内導入のメカニズムを解明し副作用の少ない分子標的薬の開発に貢献

研究(六花) 2025.01.14
奥田明子 医学部保健学科 准教授

ヒトの体を構成する細胞の中に、薬物などの生理活性物質を送り届ける技術「DDS(ドラッグデリバリーシステム)」。それを可能にする「膜透過ペプチド」の開発が近年注目されている。奥田明子准教授は、膜透過ペプチド用いた細胞内物質導入法について研究を進める。

「細胞は細胞膜によって内外が隔てられており、タンパク質や抗体、酵素といった高分子(大きい分子)は単体では細胞膜を透過できません。膜透過ペプチドは、その名の通り細胞膜を通り抜けることができるため、タンパク質などの目的物質と結合させることで、それらを細胞の中へ移行することができます。そういった高分子を標的となる細胞内へ効率的に送達する、膜透過ペプチドの開発に取り組んでいます」

1988 年のTATタンパク質による細胞内移行の発見を皮切りに様々な膜透過ペプチドが報告されている中、2019 年、奥田准教授は新しい配列に基づいた膜透過ペプチド「Pas2r12」を開発。ヒト由来の培養細胞を使った実験を通して、高分子がサイトゾルに移行することを証明した。

「これまでの膜透過ペプチドは、細胞膜は通過するもののエンドソーム内に閉じ込められ、細胞内で効果を発揮するに至りませんでした。改良したアルギニンに疎水性の配列を加えたPas2r12では、抗体がエンドソームを抜け出し、サイトゾルで拡散することが確認されました。膜透過ペプチドが標的となる細胞内へ移行するには、細胞膜成分との相互作用が重要となってくることから、今後は細胞表面の受容体にも着目し、新たな膜透過ペプチドの開発やそれぞれの特性を生かした導入方法を見いだしていければと考えています」

膜透過ペプチドを用いたDDSは、臨床応用やがん治療をはじめとする最先端治療の助けになることが期待されており、現在も世界中で活発な研究が継続されている。

「薬剤を必要な時間に、必要な場所へ、必要な量だけ作用させる技術が確立されれば、新たな治療薬はもちろん、副作用の軽減にも大きく寄与できます。タンパク質の細胞内導入など、解明しなければならないメカニズムや問題点はまだまだありますが、海外の研究者や製薬会社とも連携を図りながら、狙った細胞に高分子を届ける技術開発のさらなる発展を目指します。そして、その先にある細胞内分子を標的とした高分子薬の開発や臨床応用につなげていきたいです」

膜透過ペプチド(Pas2r12)によるタンパク質デリバリー。
Pas2r12とタンパク質を試験管内で混合し、複合体を形成。
これを細胞の培養液に加えることで、高分子が細胞内へ取り込まれる

プロフィール

奥田明子

医学部保健学科 准教授

博士(理学)。専門は臨床化学、ケミカルバイオロジー。細胞膜ペプチドを用いて、抗体やタンパク質などの高分子を目的の細胞内へデリバリーする技術の開発に取り組む。

研究者総覧

素顔

15年間一緒に暮らしているという愛猫の2匹が日々の癒しになっている。

 

※記事の内容、プロフィール等は2024年12月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第50号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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