メジャー?マイナー制に基づく学位プログラム
新潟大学は2004年度の全学科目化、2005年度の副専攻制度導入といった改革を進め、2021年度から全学分野横断創生プログラムというかたちで教育制度が発展してきた。
変化の激しい現代社会において、分野横断の学びの重要性は、さらに高まっている。
このような中で、学びの多様性を学位を与える教育プログラム全体に包含し、より特定の分野や専攻に収まらない教育プログラムへと推進するため、2024年度よりメジャー?マイナー制に基づく「学位プログラム」へと枠組みを転換することとなった。
新潟大学の分野横断的な学びを推進する取組について紹介する。
新潟大学のメジャー?マイナー制の特徴的な科目「分野横断デザイン」では、
4年間の学修計画を学生自らデザインする
社会課題に対応する人材育成プログラム
新潟大学に入学した学生は、所属する学部が開設している学位プログラムのもとで学ぶことになる。それぞれの学位プログラムで学ぶ専門分野を「メジャー」といい、いずれのプログラムでもメジャーを中核として教養を含めた体系的なカリキュラムを編成している。社会の諸問題に対して的確に対応でき、課題解決のために広範に活躍できる人材育成の仕組みだ。
さらに新潟大学では「メジャー?マイナー制」を導入している。これはメジャーと異なる分野を「マイナー」として体系的に学修する制度で、全学分野横断創生プログラム(通称:NICEプログラム)として整備されている。近年の高等教育の中でも強調されている主体的な学びを培っていくという意味合いで導入されたものだ。学生が自分の興味?関心や問題意識に沿って学修を進められるよう、マイナー支援科目の開講や専門スタッフによる相談などのサポート体制が整えられ、分野を横断した幅広い教養と深い専門性を持った人材育成を目的としている。この特色あるプログラムについて、坂本信理事(教育?高大接続担当)、福島治副学長、淺賀岳彦副学長の3人に聞いた。
メジャー?マイナー制の特徴
4年間の流れ
未来に向けて歩みを進めるための新しい教育システムが必要
視野と選択肢を広げる教育制度が必要
まず、話を聞いたのは坂本理事。新潟大学がNICEプログラムを導入した背景には何があったのか。
「当時、私は入試広報を担当していました。県外の高校を訪ね『新潟大学は10学部を有する国立総合大学です。東京都内からも新幹線なら2時間と距離的にも近い。非常に恵まれた環境です』という説明をしていました。そこで、ある先生から『国立大学なら関東地区や他の地方にもあります。2時間もかけて新潟に行く必要はどこにあるのでしょうか? 新潟大学にしかないもの、新潟大学でしか学べないものは何ですか?」と非常に鋭い質問を投げかけられたのです。私はハッとしました。新潟大学が未来に向けて歩みを進めていくためには、本当に特徴のある教育システムが必要だと痛感したのです」
目指すべき教育システムの構築のためのヒントになったのは、坂本理事がかつて過ごしたアメリカでの研究員時代の記憶だったという。
「私の専門は機械工学ですが、同僚研究者の経歴を見ると文理の行き来は当たり前で、別分野の学位を持っていることは普通のことでした。学部ではベーシックなことを学び、大学院で専門性を高めていくという学びがスタンダードだったのです。視野と選択肢が広がっていく中で、社会を変革していくような人材が生まれる可能性を感じました。以降、様々な教員や職員の力を結集し、新潟大学の持つ教育制度を発展させる形でメジャー?マイナー制を構築しました」??
坂本信理事(教育?高大接続担当)/副学長
学部にとらわれず複数の専門分野を横断して学ぶ
学生が主体的に学びをデザインする
新潟大学のメジャー?マイナー制は、総合大学の豊富な教育資源を活かし、学生が主体的に学びをデザインできるという点で非常に特徴的だ。従来の学部の枠にとらわれず、複数の専門分野を横断して学ぶことができる。その導入は国立大学の中では先駆けであった。福島副学長が話す。
「新潟大学のメジャー?マイナー制には2種類のマイナープログラムがある点が特徴です。1つはパッケージ型マイナーです。これはアメリカの大学なども導入している一般的なマイナープログラムで、テーマごとにパッケージ化された科目リストの中から、自分で科目を選択し、計画的に履修します。もう1つが学修創生型マイナーです。これは新潟大学で開講されている科目の中から自らのテーマに適した科目を選択して、学生が自分でオリジナルなマイナーの学修計画をデザインすることができます。国内でも新潟大学にしかない『セルフメイド型』の学びで、学生は個人の問題意識に沿ったテーマを選び、専門の学びだけでは補えない、多様性や自由な関心と関連付けて主体的に学ぶ力を身につけることができます」
「分野の枠にとらわれない主体的な学び」や「多くの選択肢の中から学生が自ら科目を選ぶ」という説明を聞き、学生の負担が増えるハードルの高いプログラムなのではという疑問が湧く。すかさず淺賀副学長が、学生の履修支援体制について説明する。
「新潟大学の理念は『自律と創生』です。自分の学びをきちんと考え、自ら実践することが重要です。そこで学修創生型マイナーでは、自分の興味?関心や問題意識を起点に学修する課題を見つけ、履修計画を立てる『分野横断デザイン』と、マイナー科目履修の終盤に自分の学びを振り返る『分野横断リフレクション』が必修科目になっています。また、アカデミック?アドバイザーという専門スタッフがいて、学修相談などの様々なアドバイスを通して学生を伴走的に支援しています」
「分野横断リフレクション」では、学生がそれまでの学びをカリキュラムマップとして可視化することで振り返りを行う
新しい価値観が課題解決の力を養っていく
新潟大学のメジャー?マイナー制には2024年度に変更があった。当初パッケージ型マイナーは4つだったが、2024年度には45にまで増えている。その変更の経緯とポイントは何だったのか。福島副学長が話す。
「以前のオナーズ型マイナー(副専攻プログラム)は修了に24単位が必要という、ある意味でハードルが非常に高い点が課題でした。入門科目の履修者は多かったのですが、最終的に修了まで辿り着く学生はそのうちの一部。学生の負担を減らし、さらに学びやすくするためにオナーズ型マイナーの科目をパッケージ型マイナーに移行しました。結果的に、マイナーで提供するパッケージの多様性が広がったわけです」
現在、メジャープログラムは10学部で38プログラム、マイナープログラムはパッケージ型マイナーと学修創生型マイナーで46のプログラムがある。メジャー?マイナーの学修を通じて、学生たちにはどのような力が身につくのか。
「学部が用意した科目ではなく、自主的に選択するので主体性が伸びます。また、学部を超えて学ぶことで幅広い知識やスキル、多角的視点も身につくでしょう。異なる背景や知識、マインドを持った学生たちが相互に学び活動することで他者理解やチームワーク、コミュニケーション能力も育つはずです。新しい価値観を得ることで課題解決に取り組む力も養います」(淺賀副学長)
ガイダンスには多くの学生が参加し関心の高さが窺われた
大学時代の学びは堅苦しくなく自由さがあるべき
メジャー?マイナー制の今後の展開
NICEプログラムは2020年度に文部科学省「知識集約型社会を支える人材育成事業(メニューⅠ)」に採択され、2022年度に行われた中間評価では「計画を超えた取組であり、現行の努力を継続することによって本事業の目的を十分に達成することが期待できる」として、最高評価である「S評価」を受けた。これに対して坂本 理事は「S評価はNICEプログラムに関わる全スタッフの努力と啓蒙活動、そしてプログラムを履修した熱心な学生たちのおかげです」と話し、こう続ける。
「未来の新潟大学を象徴する言葉として『真の強さを学ぶ。』というメッセージを掲げていますが、このメッセージを決める際に思い浮かべたのは、タフでしなやかな新潟大学の卒業生たちの顔でした。『真の強さ』に決まった形はありません。正解はなく、それぞれが学び続け考え続けることで少しずつ近づいていくもののように思います。大学での学びは、自分で考えて生きていく力の土台になります。だからこそ大学時代の学びは堅苦しくなく、自由さがあってよい。旧来の大学教育では目まぐるしく変わる社会情勢から求められる人材育成には対応できません。今や優秀な学生は海外の大学に出ていきますし、このままでは海外の優秀な人材から日本の大学が選ばれなくなります。私たちは新潟大学のメジャー?マイナー制を、日本の大学教育が抱える課題に対しての確かなアクションだと考えています」
グループワークは多様な学生と相互に学び合う機会にもなる
Support system
NICEプログラムの支援体制
(左)教育基盤機構教学マネジメント部門
上畠洋佑准教授
(右)教育基盤機構未来教育開発部門
柿原豪特任准教授
マイナーの履修支援では、連携教育支援事務室から2名、NICEプログラム室から2名の専任スタッフが事務的、運営的な活動を担っている。上畠洋佑准教授はNICEプログラムに関する教育の開発?企画運営に関わる全学的なマネジメントを担当。メジャー?マイナー制に関しては、新入生?在学生向けのガイダンスなどを開催し、幅広く発信をしている。またアカデミック?アドバイザーとして学修相談に当たる柿原豪特任准教授は、マイナー学修における入門科目で1?2年生が対象の『分野横断デザイン』と3?4年生が対象の『分野横断リフレクション』を担当。メジャーで学ぶ内容を理解しながら、いかにマイナーを組み合わせていくかという重要な役割を担う。「『分野横断デザイン』はマイナー学修の計画書を学生自ら作る授業、『分野横断リフレクション』はこれまでの学びを集大成する授業で、学生自身の学びをブラッシュアップさせていきます」(柿原特任准教授)。また、スチューデントアシスタントと呼ばれるマイナー履修経験のある先輩学生が授業のサポートと広報活動を行なうのも特徴だ。「教員の関わりとは異なる目線で、マイナーの学びを補完する役割を担ってくれて助けられています。ボランタリーな気持ちもあるでしょうが、自己の成長を考えて、マルチに取り組む現代的な学生の感覚が見られます」(柿原特任准教授)。「マイナーでの学びを通して学生には分野複眼的な視点と自己を相対化する力が身につきます。学生がそれぞれ持っている学びの資源を活用できるように、成長をサポートしていきたいと思います」(上畠准教授)。
教員だけでなく、スチューデントアシスタントも
相談を受け付けている
2024年度は13名が登録している
学生の声
メジャーとマイナーの学びで自分の目標がより鮮明になっていく
経済科学部地域リーダープログラム2年
金子悠璃さん
学修創生型マイナーを履修中
私は農業を活かした地域活性の方法について考えるためにマイナーの学修に取り組んでいます。経済科学部の地域リーダープログラムでは、メジャーとして地域活性における経済的視点を養うための知識、地域の経済?諸課題を解決するために必要なスキルを学んでいます。マイナーでは農業に関する知識を学びつつ、そこにダブルホームの活動で得られた知見を加えることで地域活性に向けた方策を検討しているところです。例えば、私は農業体験イベントが地域活性につながると考えています。
私はメジャーで得たものをダブルホームの場で活かし、地域の活性化に向けた課題を明らかにした上でアプローチの方法を探るというサイクルが、メジャーとマイナーの間で成り立つと思っています。メジャーとマイナーを並行かつ関連づけて学ぶことにより、自分が具体的にどのように地域の役に立ちたいかがより鮮明になってきています。地域リーダープログラムで身につける課題解決スキル、ダブルホームで培う行動力を組み合わせ、今後も地域の諸課題について考えていきたいです。
金子さん
マイナーの学修を組み合わせてメジャーの知見を広げていきたい
法学部法曹養成プログラム2年
三上夏奈さん
パッケージ型マイナー「ふるさと共創学」を履修中
「現代に生きる人々は法律に対してどんなイメージを持っているのか?」私はNICEプログラムを通じてこの探究課題と向き合っています。
メジャーの法学を学ぶなかで「専門家でない人にとっては、法律はあくまでも『感覚』として認識するものであり、条文としての法律が意識される場面は少ないのではないか」と感じるようになりました。例えば、今や「法的措置」という言葉が切り札として使われていますが、ここに現代人の法律に対するイメージが現れていると思います。 このような法学とこれに対する世のイメージの差異を言語化することを目標に、私は法社会学や社会心理学、そしてパッケージ型マイナーの「ふるさと共創学」で地域という小さな社会に焦点を当てた科目を選択するなど、様々な学問分野を自由に学んでいます。将来は依頼者に寄り添う法律家を目指しており、卒業までにマイナーの学修を組み合わせて更に知見を広げていきたいです。
三上さん
※記事の内容、プロフィール等は2024年9月当時のものです。
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掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第49号にも掲載されています。