山地斜面災害
大規模崩壊地における土砂生産プロセスを理解 将来の予測と防災?減災対策に寄与する
大雨や地震による地盤のゆるみや崩壊によって形成される崩壊地。山地斜面から崩れ落ちた土砂は、時に下流域の住民や公共施設等の社会資本に影響を及ぼす土砂災害として表れる。西井稜子准教授は、山の地形変化に着眼し、土砂生産?移動の実態解明に取り組む。
「湿潤変動帯に位置する日本の山地には、形成年代も規模も異なる崩壊地が多数存在し、特に大起伏の山が連なる中部山岳域などでは毎年多くの土砂が生産されています。落石、表層崩壊、あるいは深層崩壊と、土砂生産プロセスは様々ですが、どの崩壊地でどれだけの土砂が生産され、その原因が何なのかは詳細は明らかになっていません。主要な土砂供給源がどこか、そしてどのように土砂が生産され川へ移動しているのかを研究しています」
南アルプスの間ノ岳や七面山崩れといった大規模崩壊地を対象に、現地で測量や気象観測等を実施。航空レーザ測量データを用いた標高差分解析も行い、既存の大規模崩壊地からの土砂生産量の寄与度が大きいことを明らかにした。
「大規模崩壊地は形成時だけでなく、その後も活発に土砂を生産し続ける場合があり、異なる測量時期のデータを比較して崩壊地ごとの土砂生産量を調べました。その結果、既存の(活発な)大規模崩壊地からの土砂生産量のほうが、近年の新規崩壊によるものより多いことが分かりました。現在はドローンを使って対象エリアを年に数回測量し、より短い期間内での地形変化について調査を進めています。気象条件や土砂量をもとに経験式を作成し、温暖化によって気象に変化が生じた際、どこでどの程度の土砂が生産されるかを予測できればと考えています」
災害大国と呼ばれる日本において「減災」が注目されるようになった昨今。西井准教授は、下流域の砂防計画や土砂対策だけでなく、情報発信に関するソフト対策にも目を向ける。
「日本の国土は土砂移動が起こりやすく、実際に山地斜面災害の発生も多い地域ですが、崩壊の起こりやすさと災害リスクの大きさは必ずしも比例しません。崩壊地の地形的特徴を把握し、土砂生産プロセスを理解することは、堤防や砂防えん堤の築造をはじめとするインフラ整備、避難行動を呼びかけるシステム開発や防災教育、さらには将来の土地の利活用にもつながります。これからも研究に励み、短期的?長期的両方の視点で災害対策に貢献していきたいと思います」
上は赤崩、下は七面山の大規模崩壊地。どちらも南アルプス南部にある
プロフィール
素顔
元々登山が好きであったことが研究のルーツとなっているという西井准教授。
新潟大学に赴任して以降、調査での山登りがほとんどとなっているが、火打山など新潟県内の山にも登りたいと考えている。
※記事の内容、プロフィール等は2024年9月時点のものです。
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掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第49号にも掲載されています。