感染症のデータサイエンス?経験を超えてエビデンスに基づく対策を?

感染症伝播の時空間変動を評価し、流行予測法の確立を目指す

教員コラム(若手研究者) 2024.07.01
我妻奎太 大学院医歯学総合研究科(医) 助教

感染症は、私たちにとても身近な病原体のことで、篮球比分直播感染症や毎年のようにはやるインフルエンザなどがその代表例です。このコラムの読者の皆さんも感染症にかかり、病院に行き、薬を処方してもらった経験も多いのではないかと思います。そのため、感染症の流行をいかにコントロールし、その原因を探ることで、患者さんの集団発生や死亡者を少なくできるかが、大切な課題となっています。このような考え方をする学問分野を「公衆衛生学(Public Health)」と言い、社会医学の大きな柱となっています。

そこで私の研究では、自身の専門分野である呼吸器ウイルス感染症を主な対象として、統計モデルや機械学習などのデータサイエンス技術を用いて、感染症の時空間分布の推定や伝播ダイナミクスの解明、公衆衛生対策や気候変動の影響評価、並びに流行予測の実現などを細目分野とした疫学研究を行っています。疫学研究とは、ある地域や集団のなかで、健康面でどのような問題が発生しているのか、その原因は何かなどを探る研究を言います。その大きな取組の一つが、気候変動と感染症の流行伝播に関する研究です。日本全国の感染症データベースをつくり、篮球比分直播感染症、インフルエンザ、RSウイルス、手足口病、感染性下痢症、水痘、結核、マイコプラズマ肺炎などの季節性の評価や、気温の上昇や降水パターンの変化などの気象条件によって、流行がどのように変化するかを明らかにしてきています。最近、日本のインフルエンザの患者数と気候変動の関連性ついて20年以上のビックデータを解析したところ、気温の上昇に対して東北地方から北海道では感染症の発生リスクが大きいことを見出しました。また最近、日本全国の手足口病の患者数と気温の短期変動との正の関連性も見出しており、地球温暖化に伴う罹患リスクが上昇する可能性も報告しています。このように、環境と感染症に関するデータを集めて分析すると、新たな事実が色々と分かってくるのです。実際、地球温暖化の進展に伴って、熱波や洪水、台風、干ばつなどの異常気象の頻度や強度が増すことで、様々な健康影響が生じる可能性が、最近のより詳細な研究からも明らかになってきています。意外に思う人も多いのですが、世界に目を向けてみると、熱帯?亜熱帯地域ではデング熱?マラリア?水系感染症(コレラや下痢症など)、ヨーロッパではウエストナイル熱などの感染症の流行地域の拡大や、患者数の増加が懸念されている現状もあります。環境と人間の健康を大きな目でとらえる事で、外的な環境の変化に呼応して、健康を維持?増進するための対策(適用策や緩和策など)を講じることができるようになるのです。私のもう一つの大きな仕事の一つは、医学部?国際保健学分野で行なっている、日本やミャンマーでのサーベイランス研究への参画です。どの様なウイルス遺伝子系統が流行っているのか、臨床症状はどうか、血清抗体価の調査し、実効再生産数の推定をするなど、世界中の感染症の流行伝播を大きな目で日夜探っています。

篮球比分直播感染症の新規確定報告数と実効再生産数の推移。
(A)北海道、(B)東京都、(C)愛知県、(D)大阪府、(E)福岡県、(F)沖縄県における新規確定報告数(緑色)と実効再生産数(青紫色)を示す。

では、実際には何をしているのか?と言うと、毎日コンピュータと格闘(1日中パソコンとにらめっこして、統計解析や、プログラムとアルゴリズムの作成)をしています。日本や世界中で発生している感染症の情報なども、研究論文、統計データ、公的研究機関、民間企業、などが提供する情報も含めた幅広いデータソースから収集し、自身の研究に活かしています。現在、私が働いている医学部の職場では、データサイエンスのバックグラウンドをもつ私は完全なマイノリティーではありますが、少ない共通のトピックから研究の可能性を膨らますことで、実はとてもニッチな仕事を行っています。実のところ、マイノリティーであるが故に、研究の競争が少ないのが強みと言えるのかも知れません。皆さんが、一般的にイメージする医学研究(例えば、白衣を着て、ウイルスの実験を行うとかでしょうか?)とはかなり異なった研究分野が実際には存在していたりするのです。

気候変動と篮球比分直播感染症の流行伝播。
(A)気温と(B)湿度の短期変動が実効再生産数(一人の人が何人にうつすか)に及ぼす影響。

グローバルな視点に目を向けると、今もなお、世界中で多くの人々が感染症で苦しんでおり、流行の抑制や制御を達成するための課題はまだ多くが取り残されたままです。私たちの研究は、現場に実際に赴く臨床医の先生方のように、患者さんを直接治療や診断することはできません。しかしながら、公衆衛生学やデータサイエンスを一つの切り口として、病人のみならず、あらゆるレベルの健康状態をもった人々からなる集団の「予防」を目指すことで、何千、何万、はたまた、何億といった人々の健康に貢献でき、大規模な政策にさえ発展させることができる可能性があるのです。これからも、より良い科学的知見の提供を目標に、広い視野を持った疫学研究に、果敢に挑戦を続けたいと思います。最後になりますが、感染症の健康影響評価や流行予測など野心的テーマを、ご一緒に分析いただける企業、研究者有志、ご興味のある大学院生の皆様には、ぜひ気軽にお声がけをいただければと思います。一緒に面白い研究をやりましょう。

国際学会にて、気候変動とインフルエンザの流行伝播に関する講演を行っている様子。

プロフィール

我妻奎太

大学院医歯学総合研究科(医) 助教

博士(医学)。専門は感染症疫学とデータサイエンス。新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学系)修了後、日本学術振興会特別研究員(DC1)を経て、2024年4月より新潟大学医歯学系(医学部)助教。新潟大学若手教員スイングバイ?プログラム採用教員(4期)。

研究者総覧

※記事の内容、プロフィール等は2024年7月時点のものです。

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