栄養不良地域における日常?緊急時の栄養源としての地酒の役割

諸栄養が不足する地域特性や食文化を理解、食事としての酒の可能性を見出す

研究(六花) 2024.04.19
砂野唯 創生学部 助教

一般的に酒は「嗜好品」に分類されるが、アフリカやアジアには、酒を「食事」として摂取する地域がある。栽培できる作物種が少ない地域に多くみられ、住民は酒を栄養源として摂取している。砂野唯助教は、酒を食事にすることを可能とする要因について、生態人類学的なアプローチから研究している。

ヤシの樹液を原料にしたインドネシアの醸造酒と蒸留酒
ネハ?ールの餅麹

「穀物を発酵させた醸造酒は、栄養源となる食物の種類や量が限られる地域でも造られており、エチオピアやネパールには酒を食事とする習慣をもつ農村があります。栄養獲得が困難な地域における食糧生産?貯蔵?加工?消費と、さらに酒が健康維持にどう貢献しているのかを、フィールドワークを通して調べています」

現地を訪れて人びとと寝食を共にしながら聞き取りや参与観察を行い、食糧生産から貯蔵、加工、なかでも地酒の造り方、摂取状況までを調査。酒の科学成分、健康状態に関するデータ分析にも注力している。モロコシなどの穀物をアルコール発酵させることで、栄養価が向上していることを明らかにした。

「対象とした地域では、外からは栄養不良地域と見られていても、実際に現地住民の体つきや身体機能を解析すると、意外に十分な栄養が摂取されていることが分かりました。また、エチオピアの農村で作られている『パルショータ』という醸造酒の成分を分析した結果からは、発酵により必須アミノ酸をバランス良く含む良質なタンパク質が作り出されていることも分かりました。アルコール度数を抑えた酒から、一日に必要なカロリーやタンパク質を補給し、それを毎日の食事として摂取することで、健康を保っていると考えられます」

タンザニアの醸造酒。トウモロコシ粉末に発芽種子を加えて糖化し、アルコール発酵させている

醸造酒の主原料となるモロコシは、環境適応性が高く、近似する自然環境や食文化を持つ他の地域でも栽培が可能とされている。砂野助教は、栄養状態改善を図る方法のひとつとして、酒を食事とする習慣に注目している。

「醸造の材料や環境は地域ごとに様々ですが、その地域で栄養源となる酒は、地域内の材料や菌、独自の醸造方法で造られるため、自然?人的災害の余波を受けにくく、閉された環境下での栄養充足に寄与し得ます。嗜好品ではなく食事としての酒にフォーカスを当てることで見えてくることは多く、適切に摂取すれば健康増進や薬になることもあります。引き続き各地の地酒の特徴や成分分析、摂取効果を研究し、飢餓や栄養不良の問題解決に寄与したいです」

ネパールでサンプリング用の醸造酒を分けてくれたご家族
竹酒ウランシ?を採取するタンザニアの女性

プロフィール

砂野唯

創生学部 助教

博士(地域研究学)。専門は地域研究学、生態人類学。酒を食事とする地域でのフィールドワークを通して、食文化形成における酒の役割について研究を進める。スイングバイ?プログラム採用教員(2期)

研究者総覧

嗜好品としての酒にも興味が尽きない砂野助教は日本酒学センターの協力教員でもある。
「日本酒は非常にこだわって造られていて、世界的に見ても独特です。平和で豊かだからこそ嗜好品として発展してきたと言えます」
様々な酒蔵を巡って調査を行うとともに、日本酒を味わうのも1つの楽しみになっている。

※記事の内容、プロフィール等は2024年3月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第47号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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