価値共創による新しい市場の発展の可能性
県内企業の事例から得られる新たな概念フレームワーク 価値共創のロール?モデルに
国際的なハイブランドのリテール?マネージャーという経歴を持つ石塚千賀子准教授。経験と知見を活かしブランドと顧客のつながりを研究してきた。近年は、新潟県内の企業に着目。昨年は長岡市にある、470年の歴史を持つ蔵元、吉乃川株式会社で調査を行った。中でも目を引いたのが、江戸時代から普及したと言われる酒屋の屋号のついた徳利をもって酒を買いに通うという慣習から着想を得た「カヨイ」という取組だ。
「吉乃川“カヨイ” は、顧客の大切な日に寄り添いたいという蔵元の想いの結晶です。通い徳利は、クラウドファンディングで募った消費者、ボトルをつくる地域の匠の技、そして蔵元の三者によって現代に蘇りました。製品はプレミアムな日本酒とスタイリッシュなボトルですが、本質的には顧客の大切な日にボトルが蔵と自宅を通うという体験価値が共創されています。これは歴史ある蔵元が伝統を守りながら革新的なサービスを展開したことで共感を得て実現した新しいエコシステムといえます」
従来、市場において価値とは交換されるものであり、その価値は企業から消費者に提供されるのが主流だった。しかし、現代では消費者だけでなく様々なステークホルダーとともに企業が新しい価値を創造する「共創」という概念が注目されている。例えば、米国の企業Uber は、消費者も参加して利用することで価値が生まれ「シェアリング?エコノミー」が成立する。伝統産業でこのような発想に至るのは見事だ。自分たちの利益だけではなく、消費者や社会の共感を得ながら、一緒に地域社会に新しい価値の循環を生み出していく。ESG 経営の考え方にもつながる。
「吉乃川の事例は、他の伝統産業にとっても復興のカギとなる新しい視点があったと考えます。体験価値を共創する一つのロール?モデルになりえると確信しました」
石塚准教授の研究グループはこの研究を国際学術誌で発表。さらに他の県内企業の、リスクを覚悟で持続可能性を重視した経営に挑む事例研究もアメリカの学会で発表した。
「新潟には世界のロール?モデルになるような素晴らしい取組を行っている企業がたくさんあります。これらの事例から一般化できる要素を経営者や地域の未来を担う若者に伝えていきたいです。今後も優れた企業の調査を続け、新しい市場や環境?社会との関係を作るマーケティングアプローチを研究していきます」
企業が消費者にモノ(=価値)を提供するという次元から、歴史を修辞的に利用することで、顧客も含めた関係者がそれぞれの文脈で価値を共創し経験価値が生まれる(Ishizuka, Tseng and Kishi, 2022)
プロフィール
素顔
2019年に日本酒学センターの協力教員となったことを機に、長く封印していた日本酒を解禁したという石塚准教授。まずは研究を兼ねて地酒屋以外の日本酒の販売店でじっくりお客さんの行動を観察しつつ、自身もラベルを頼りに片っ端から購入して飲んでみるという一人酒の陣がスタート。だんだんと味の違いや奥深さが分かり始めた頃、COVID-19の感染拡大により、一人酒の陣はピークを迎えたそう。
「今、やっと友人や同僚と集って飲めるようになり、やはり酌み交わすお酒は格別に美味しく、違う意味をもつものだと実感しています。よく食べ、よく働き、よく遊ぶをモットーによく飲んでおります」
※記事の内容、プロフィール等は2023年4月当時のものです。
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掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第44号にも掲載されています。