希少なオリゴ糖に作用するユニークな基質特性を持つ新規酵素を発見~新たな機能を持つ糖鎖の合成、利用の可能性を拓く~
研究の要旨とポイント
- ガラクトースを含む糖鎖はプレバイオティクスとして近年注目が集まっており、より有用性の高い物質がまだ多数存在すると推測されます。
- 今回、腸内細菌の一種から、新規な基質特異性を持つガラクトオリゴ糖分解酵素β-ガラクトシダーゼを同定しました。
- 酵素は糖鎖の合成に欠かせないもので、生成された糖鎖の機能性にも深く関わります。新規酵素を用いることで有用な糖鎖の大量生産が可能になり、新しい機能を持った機能性食品や医療につながる可能性があります。
研究の概要
東京理科大学創域理工学部生命生物科学科の中島将博准教授、同大学創域理工学研究科生命生物科学専攻の中澤裕氏(2023年度修士課程修了)、本学農学部農学科の中井博之准教授、香川大学農学部応用生物科学科の松沢智彦助教らの研究グループは、ニコチンを分解できる腸内細菌の一種Bacteroides xylanisolvens(以下「B. xylanisolvens」)から、新規な基質特異性を持つガラクトオリゴ糖分解酵素群を発見しました。
オリゴ糖はヒトの母乳をはじめ、自然界に広く存在しており、消化管の上部で分解や吸収がされず、腸内のビフィズス菌などの善玉菌の栄養素となることで腸内環境を整える効果が知られています。こうした作用を持つ食品成分をプレバイオティクスといい、難消化性であるオリゴ糖はその代表です。
ガラクトシドは植物細胞壁やさまざまなオリゴ糖に含まれる糖質です。β-ガラクトシダーゼはガラクトシドを分解してガラクトースを生成する酵素です。有用性の高いオリゴ糖を見出し、大量生産するためには、そのオリゴ糖を合成するための新しい酵素の探索が重要です。特に、新しい基質特異性を持つβ-ガラクトシダーゼを見出すことは、新しい機能を持ったオリゴ糖の開発につながる可能性があります。
本研究では、腸内細菌B, xylanisolvensから新規な基質特異性を持つβ-ガラクトシダーゼを同定しました。これは、β-1,2-ガラクトオリゴ糖(図1)というユニークな糖鎖に作用します。この酵素の発見で、希少なβ-1,2-ガラクトオリゴ糖の機能や特性、利用の研究が進むと期待されます。また、ユニークな基質特異性を持つことから、新しい機能を持ったオリゴ糖を見出す手掛かりになる可能性もあります。
図1. β-1,2-ガラクトオリゴ糖と乳糖の模式図。
ヒドロキシ基にはその番号を記載している。β-1,2-ガラクトオリゴ糖ではガラクトースの1位と2位のヒドロキシ基どうしで結合しており、β-1,2-結合となっている。乳糖はガラクトースとグルコースがβ-1,2-結合で連なっている。β-ガラクトシダーゼは赤で囲ったガラクトース部分を分解する酵素である。
本研究成果は、2025年1月16日に国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。
研究内容の詳細
希少なオリゴ糖に作用するユニークな基質特性を持つ新規酵素を発見~新たな機能を持つ糖鎖の合成、利用の可能性を拓く~(PDF:0.5MB)
論文情報
【掲載誌】Communications Biology
【論文タイトル】Structure and function of a β-1,2-galactosidase from Bacteroides xylanisolvens, an intestinal bacterium
【著者】Yutaka Nakazawa, Masumi Kageyama, Tomohiko Matsuzawa, Ziqin Liang, Kaito Kobayashi, Hisaka Shimizu, Kazuki Maeda, Miho Masuhiro, Sei Motouchi, Saika Kumano, Nobukiyo Tanaka, Kouji Kuramochi, Hiroyuki Nakai, Hayao Taguchi, Masahiro Nakajima
【doi】10.1038/s42003-025-07494-1
本件に関するお問い合わせ先
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