ペリスタルティックポンプを用いたシミュレーションで解明!アミロイド線維が作られるメカニズム-アミロイドーシス発症の仕組みに迫る新技術-
研究成果のポイント
- アミロイド線維が生体内で形成されるメカニズムを、チューブをローラーでしごいて送液するポンプ(ペリスタルティックポンプ※1)を用いたシミュレーションで解明
- ペリスタルティックポンプがせん断ストレス※2を引き起こし、それによりタンパク質がアミロイド線維を形成することを発見
- 高齢化に伴って頻発するアミロイドーシス※3の発症化機構の解明を目指すさまざまな取り組みがあるが、生体内でのアミロイド形成のトリガー刺激の詳細は不明だった。
- アミロイドーシス発症機構の解明、アミロイドーシス発症リスクの評価などの研究に貢献することに期待
概要
大阪大学大学院工学研究科の後藤祐児特任研究員、太田朝貴さん(博士後期課程)、荻博次教授、本学大学院医歯学総合研究科の山本卓教授らの研究グループは、チューブをローラーでしごいて送液するポンプ(ペリスタルティックポンプ)が引き起こす「せん断ストレス」が原因でアミロイド線維という物質ができることを発見しました。
アルツハイマー病、パーキンソン病、透析アミロイドーシスなどのアミロイドーシスは、それぞれの特定の原因タンパク質が、何らかの刺激を受けて、物質の結晶に類似した構造のアミロイド線維を形成することにより発症します。高齢化に伴って頻発するアミロイドーシスの発症化機構の解明や、アミロイドーシスの治療、予防を目指すさまざまな取り組みがありますが、生体内でアミロイド形成のきっかけとなる刺激の詳細は不明でした。
研究グループは、ペリスタルティックポンプと、蛍光検出器、蛍光顕微鏡を使って、アミロイド線維が形成し、流路を流れていく様子をリアルタイムに観察しました(図1)。個々のアミロイド線維は直径10nm、長さ10mm以上の剛直な形状をしていますが、これらが集合すると、もやもやとした綿毛のかたまりのようです。これらが形状を変えながら、細い流路の中を流れていく様子が観察されました。また、タンパク質の種類に依存した特徴も明らかとなりました(図2)。
これにより、ペリスタルティックポンプのぜん動運動が、特に強いせん断ストレスをもたらすことをシミュレーションによって示しました。
このシステムを発展させることで、微量の生体試料のアミロイド形成リスクを評価することができます。これにより、アミロイドーシス発症機構の解明、アミロイドーシス発症リスクの評価などの研究開発に貢献することが期待できます。
本研究成果は、英国科学誌「npj biosensing」に、2025年1月31日(日本時間)に掲載されました。
【用語解説】
※1 ペリスタルティックポンプ
シリコンなどの軟質チューブをローラーでしごいて送液するポンプであり、チューブポンプ、ローラーポンプとも呼ばれる。溶液と接する箇所はチューブ内のみのため?汚染されず?無菌的に送液する事もできるため、医療現場でよく使われる。ペリスタルティックポンプは血液透析にも用いられている。
※2 せん断ストレス
流体の壁面とそれと直交する位置で流れの速度に差があるとき、流体の内部で生じる単位面積当たりの力をせん断ストレスと呼び、さまざまな効果を引き起こすことが知られている。細い流路を溶液が流れる場合、粘性の効果により流路の中心の流れが速く、壁面は遅い。このため壁面からの位置に依存したせん断ストレスが作用し、流路内のタンパク質凝集体は形状に依存して、回転したり、方向がそれたり、あるいは形状が変形したりする。生体内においても微小血管、リンパ液、間質液などでせん断ストレスが生じている。
※3 アミロイドーシス
生体内でタンパク質がアミロイド線維と呼ばれる針状の異常な塊を作った時に引き起こされる病気の総称。アミロイドーシスの代表として、アルツハイマー病、パーキンソン病、Ⅱ型糖尿病などが挙げられる。治療法が確立されていない難病が多く、その予防や治療は重要な研究課題となっている。研究グループのこれまでの研究から、アミロイド線維の形成は、塩の結晶化や水が氷になるのと類似した反応であり、原因物質の過飽和状態(あるいは過冷却状態)が解消されて起きることがわかってきた。
研究内容の詳細
ペリスタルティックポンプを用いたシミュレーションで解明!アミロイド線維が作られるメカニズム-アミロイドーシス発症の仕組みに迫る新技術-(PDF:1.0MB)
論文情報
【掲載誌】npj biosensing
【論文タイトル】Peristaltic pump-triggered amyloid formation suggests shear stresses are in vivo risks for amyloid nucleation
【著者】Yuji Goto, Tomoki Ota, Wenlou Yuan, Ikuko Yumen, Keiichi Yamaguchi, Hirokazu Matsuda, Suguru Yamamoto, and Hirotsugu Ogi
【doi】10.1038/s44328-025-00027-0
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