エネフリード?輸液による透析時静脈栄養療法の効果-血液透析患者への栄養介入に新たな可能性-
近年、透析療法(注1)の進歩や高齢者の透析導入増加により、透析患者全体の高齢化が進んでいます。これに伴い、透析患者のサルコペニア(注2)やフレイル(注3)、Protein energy wasting(PEW)(注4)といった低栄養状態が問題となっています。栄養介入方法として栄養カウンセリングや経口サプリメント、透析時静脈栄養(Intradialytic parenteral nutrition:IDPN)(注5)が日本透析医学会からの提言でも推奨されています。特に透析日には食事量が減りやすく、透析による栄養素の漏出や消費エネルギーの増加も加わって低栄養がさらに進行しやすい状況にあります。IDPNはこのような血液透析患者に対して栄養状態の改善に寄与できる可能性がありますが、その方法や効果はまだ確立していません。
そこで、東京医科大学腎臓内科学分野の菅野義彦主任教授を研究代表者とする、本学大学院医歯学総合研究科腎研究センター病態栄養学講座の蒲澤秀門特任講師、細島康宏特任准教授らと株式会社大塚製薬工場との研究グループは、「低栄養の維持血液透析患者を対象としたエネフリード?輸液(注6)によるIDPNの効果を検討する多施設共同非盲検無作為化試験」を実施しました。週3回12週間、透析時にエネフリード?輸液によるIDPNを行った結果、血液透析患者の栄養指標に改善は認められませんでしたが、食事摂取量が増加しました。また、透析中の低血糖が減少しました。
本研究成果のポイント
- 低栄養の血液透析患者を対象にエネフリード?輸液を用いたIDPNの効果をランダム化比較試験(注7)により検討しました。
- 栄養指標には変化がありませんでしたが、食事摂取量の増加や透析中の低血糖の減少が認められました。
【用語解説】
(注1)透析療法
人工的に血液中の余分な水分や老廃物を取り除き、血液をきれいにする働きを腎臓に代わって行う治療法です。透析療法は、機械に血液を通してきれいにする「血液透析」と、患者自身のお腹の膜(腹膜)を利用して血液をきれいにする「腹膜透析」の2つに大きく分けられます。
(注2)サルコペニア
加齢や疾患などに伴い筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下する状態を指します。筋肉の喪失が進むことで、転倒や骨折、要介護状態のリスクが高まり、健康寿命の短縮につながるため、高齢者医療において重要な課題とされています。
(注3)フレイル
高齢者を中心に、加齢に伴う心身の予備能力が低下し、ストレスに対する抵抗力が弱くなった状態を指します。健康と要介護状態の中間段階に位置付けられ、適切な介入が行われない場合、要介護状態に進行するリスクが高まります。
(注4)Protein energy wasting(PEW)
慢性腎臓病患者に特有の低栄養状態で、たんぱく質やエネルギーの不足による消耗状態を意味します。体重減少や筋肉量の減少、血清アルブミンの低下などによって特徴づけられ、患者の予後に悪影響を及ぼします。
(注5)透析時静脈栄養(Intradialytic parenteral nutrition:IDPN)
血液透析患者に対して、輸液ポンプを用いて血液透析中に透析回路の静脈側から栄養輸液を投与する栄養療法です。透析治療に使用している透析回路から栄養輸液を投与するので透析患者への新たな針刺しが不要です。
(注6)エネフリード?輸液
糖、アミノ酸、脂肪、電解質、水溶性ビタミン9種を含む静脈栄養製剤です。使用時に輸液バッグの隔壁を開通させることで無菌的に混合調製できます。
(注7)ランダム化比較試験
対象患者を2つ以上のグループに無作為(ランダム)に分け、治療法などの効果を検証することです。
研究内容の詳細
エネフリード?輸液による透析時静脈栄養療法の効果-血液透析患者への栄養介入に新たな可能性-(PDF:0.6MB)
論文情報
【掲載誌】PLOS ONE
【論文タイトル】Efficacy and safety of intradialytic parenteral nutrition using ENEFLUID? in malnourished patients receiving maintenance hemodialysis: an exploratory, multicenter, randomized, open-label study
【著者】Hideyuki Kabasawa, Michihiro Hosojima, Eiichiro Kanda, Miho Nagai, Toshiko Murayama, Miyuki Tani, Satoru Kamoshita, Akiyoshi Kuroda, Yoshihiko Kanno
【doi】10.1371/journal.pone.0311671
本件に関するお問い合わせ先
医歯学系総務課
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