新しい顕微鏡による観察で神経細胞がガイダンス分子を捕える仕組みを解明-神経突起先端の表面から伸縮する極小アンテナの発見-
正常に機能する脳がつくられるためには、神経細胞から伸びる神経突起が正しく配線される必要があります。神経突起の先端に生じるアメーバ様の「成長円錐(注1)」は、道しるべとなるガイダンス分子(注2)を検出して変形することで、正しい方向に神経突起を導いています。
本学大学院医歯学総合研究科の野住素広講師、五十嵐道弘名誉教授の研究グループは、超解像顕微鏡(注3)を使って、成長円錐の形を作っているアクチン細胞骨格(注4)の3次元画像を撮影しました。その結果、成長円錐の表面からアクチン束の微小突起が伸び縮みしており、その表面の受容体を介してガイダンス分子を捕えていることが明らかになりました。これはアクチン細胞骨格が成長円錐の変形や移動だけでなく、ガイダンス分子を捕捉する専用アンテナをつくることで、経路探索にも直接関係することを示しています。
本研究成果のポイント
- 超解像顕微鏡を使って、神経突起先端(成長円錐)の3次元構造を可視化した。
- 成長円錐の表面でアクチン細胞骨格が束になって微小突起をつくる。
- ガイダンス分子の受容体が集合する微小突起は伸縮して、ガイダンス分子を積極的に捕える。
【用語解説】
(注1)成長円錐
神経細胞から神経突起が伸びるとき、その先端に生じるアメーバ様の構造で、1890年にスペインの神経解剖学者S.ラモニ?カハール(脳研究では最初のノーベル賞受賞者)によって発見されました。成長円錐は脳内に存在する神経突起を誘引または退縮させる作用をもつ多種類のガイダンス分子に反応して、アクチン細胞骨格を再構築することで1方向へ伸びるように変形して、正しい方向へ移動します。成長円錐は機関車のように神経突起を先導することで、神経回路を正しく配線することができます。
(注2)ガイダンス分子
神経回路ネットワークを作るためには、成長円錐の動き方を支配する細胞外の分子の作用が必要不可欠で、このような分子(タンパク質)をガイダンス分子(または軸索ガイダンス分子)と言います。成長円錐を引き寄せる分子(正のガイダンス分子)と、成長円錐が反発してその分子がある場所から反対方向に移動させる分子(負のガイダンス分子)があります。これらの分子は、受容体という特別なタンパク質に結合して、成長円錐内に情報が伝わり、そのアクチンの離散集合の仕方が決められます。
(注3)超解像顕微鏡
普通の顕微鏡は光(可視光線)を光源とする顕微鏡で光学顕微鏡と呼ばれますが、可視光線の波長に基づき、200nm(1mmの1/5,000)以内の2つの点を識別できず、くっついた像として観察してしまいます。よって、それより小さいサイズの構造は見えず、それより接近した構造同士は識別することができません。「電子顕微鏡」の小さいものを見る特性と、「光学顕微鏡」の分子(蛍光を付けた分子)の動きをみられる特性を、両方持つように開発されたのが超解像顕微鏡で、200nmの分解能限界より小さい構造、接近した構造を見ることが初めて可能になりました。
(注4)アクチン細胞骨格
筋肉の収縮はアクチンとミオシンの相互作用で達成され、神経細胞を含む一般の細胞もこれと類似の機構を持っています。アクチン分子は集合してフィラメント構造(F-アクチン)をつくり、これにさまざまなアクチン結合タンパク質という調節分子が結合して、アクチン細胞骨格という構造を作り、細胞の形を自由に変化させることができます。神経の成長は成長円錐の先端にアクチン細胞骨格があり、ガイダンス分子の働きで伸びる方向が示されると、アクチン細胞骨格の集合状態が変化して、伸びる方向が決定されます。
研究内容の詳細
新しい顕微鏡による観察で神経細胞がガイダンス分子を捕える仕組みを解明-神経突起先端の表面から伸縮する極小アンテナの発見-(PDF:0.8MB)
論文情報
【掲載誌】Journal of Neurochemistry
【論文タイトル】Identification of z-axis filopodia in growth cones using super-resolution microscopy(超解像顕微鏡を使った成長円錐のz軸フィロポディアの同定)
【著者】Motohiro Nozumi, Yuta Sato, Miyako Nishiyama-Usuda, Michihiro Igarashi(野住素広、佐藤勇太、西山-薄田美也子、五十嵐道弘)
【doi】10.1111/jnc.16162
本件に関するお問い合わせ先
医歯学系総務課
E-mail shomu@med.niigata-u.ac.jp