西部北太平洋亜寒帯域における海水中テルル化学種の分布の解明に成功-分析法の確立に成功-
本学大学院自然科学研究科博士後期課程の深澤徹さん、理学部の則末和宏准教授、松岡史郎教授、臼井聡准教授、東京大学大気海洋研究所の小畑元教授の研究グループは、海水中に超微量で存在するレアメタル(注1)であるテルル化学種(Te(IV)およびTe(VI))の分析法を確立し、西部北太平洋亜寒帯域におけるTe(IV)およびTe(VI)濃度の鉛直分布(注2)を世界で初めて解明しました。
確立した分析法は水酸化マグネシウム(以下、Mg(OH)2)共沈法による前濃縮、陰イオン交換樹脂カラムによる化学分離、二重収束型のICP質量分析法による測定、125Te濃縮同位体(注3)を用いた補正法を組み合わせた手法です。本手法を様々な海域で得られた海水試料に適用することで、海洋におけるTeの物質循環過程の解明に寄与することが期待されます。
本研究成果のポイント
- 海水中の濃度が2pmol/kg以下と極めて低く従来分析が困難であった海水中Te化学種を精確に定量できる分析法を確立した。
- 確立した分析法を海水試料に適用し、世界初となる西部亜寒帯北太平洋における海水中Te化学種濃度の鉛直分布を解明した。
- Teは海底鉄マンガン酸化物(注4)中に高濃縮するレアメタルであり、今後、確立した手法を様々な海域で得られた海水試料に適用することで、海水中から海底鉄マンガン酸化物中へのTeの濃縮過程およびTeが高濃縮する海域の地理的分布の解明に寄与すると考えられる。
【用語解説】
(注1)レアメタル:産業界での流通量が少ない金属のことをいいます。テルルは半金属としての性質を持ちますが、天然における産出量が少ないため、一般にレアメタルに分類されています。
(注2)鉛直分布:海洋表層から深層までの鉛直的な分布のことをいいます。元素濃度の鉛直分布には、海洋における元素の循環過程が反映されると考えられており、海洋研究における基礎となります。
(注3)125Te濃縮同位体:天然の同位体比組成を持つTeの標準溶液とは異なり、125Teを同位体的に濃縮した標準溶液です。この標準溶液を海水試料に添加して分析することで、分析におけるTeの回収率が不完全でも精確な分析値を得ることができます。
(注4)海底鉄マンガン酸化物:すべての海底に普遍的に存在する鉱物で、鉄(Fe)やマンガン(Mn)を主要成分としています。Teやコバルト(Co)など電子製品に必要なレアメタルが含まれており、海洋資源として注目されています。
研究内容の詳細
西部北太平洋亜寒帯域における海水中テルル化学種の分布の解明に成功-分析法の確立に成功-(PDF:0.5MB)
論文情報
【掲載誌】Analytica Chimica Acta
【論文タイトル】Determination of ultra-trace Te species in open ocean waters based on Mg(OH)2 coprecipitation, anion exchange resin column separation and inductively coupled plasma sector-field mass spectrometry using a 125Te-enriched isotope spike
【著者】Tohru Fukazawa*, Hajime Obata, Shiro Matsuoka, Satoshi Usui and Kazuhiro Norisuye(*筆頭?責任著者)
【doi】10.1016/j.aca.2024.342430
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