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β-1,2-グルカンの環化に関わるメカニズムを解明~生理学的に重要な環状β-1,2-グルカン研究の進展に寄与~

2024年02月13日 火曜日 研究成果

研究の要旨とポイント

  • 環状β-1,2-グルカンは宿主との共生や感染、細胞浸透圧の調節などの機能を果たす重要な環状糖鎖です。一方で、環化反応のメカニズムについては未解明な点が多く残されていました。
  • 環状β-1,2-グルカン合成酵素の環化反応に関わる領域を単独で発現させ、直鎖状β-1,2-グルカンから環状β-1,2-グルカンを合成する触媒反応のメカニズムを解明しました。
  • 本酵素は糖質加水分解酵素(GH)の反応機構を利用して環化(糖転移反応)を行う酵素です。既知のGHとはアミノ酸配列の相同性を示さず、また触媒機構も系統的に大きく異なることから、新たなGH family 189が創設されました。
  • 本研究成果は、糖質関連酵素の多様性の一端を明らかにしたものであり、環状β-1,2-グルカンの酵素合成法の確立にもつながる基礎的知見です。

研究の概要

東京理科大学創域理工学部生命生物科学科の田中信清助教、齋藤龍太郎氏(2021年度学士課程卒業)、中島将博准教授、政池知子准教授、産業技術総合研究所人工知能研究センターの小林海渡氏、本学農学部農学科の中井博之准教授らの共同研究グループは、好熱性細菌Thermoanaerobacter italicus由来の環状β-1,2-グルカン合成酵素(CGS)から環化ドメイン(TiCGSCy)を組み換え型酵素として単独で発現させ、直鎖状β-1,2-グルカンから環状β-1,2-グルカンを合成する触媒機構を明らかにしました。また、本研究成果によりCGSグループにおいて新規な糖質加水分解酵素ファミリー(Glycoside hydrolase family, GHファミリー)189が創設されました。

環状β-1,2-グルカンはさまざまな根粒菌や植物病原菌が生産する多糖であり、宿主との共生因子や免疫調節などの機能が知られています。一般的に、CGSはUDP-グルコースとグルコースから糖鎖の伸長、鎖長の調節、環化といった触媒反応を経て最終的に環状β-1,2-グルカンを合成しますが、最終段階にあたる環化のメカニズムは未解明のままでした。そこで、本研究グループはβ-1,2-グルカンの環化反応メカニズムを明らかにするために研究を行いました。

T. italicus由来のCGSから環化反応を担う推定領域(TiCGSCy)を単独で発現させ、精製により得られた酵素を直鎖状β-1,2-グルカンに作用させることで、TiCGSCyの機能を解析しました。その結果、直鎖状糖鎖のみ分解できるグルコシダーゼでは加水分解されない化合物が生成され、1H-NMRや質量分析の結果から環状β-1,2-グルカンであることが明らかになりました。次に、β-1,2-グルコオリゴ糖(重合度2-10)を基質とした際の反応産物をTLC分析で調べたところ、重合度6以上の基質に対してのみ反応が観察されました。興味深いことに、この反応では通常加水分解によって遊離するはずの重合度3以下の糖は遊離せず、いずれにおいても重合度4以上のβ-1,2-グルコオリゴ糖が遊離しました。この結果は、TiCGSCyが加水分解を行わないユニークな反応機構を有し、重合度6以上のβ-1,2-グルコオリゴ糖に対して糖転移活性を示すことを示唆しています。

X線結晶構造解析によりTiCGSCyの立体構造を解明し、アミノ酸配列の相同性はないものの構造がよく類似していたGH144とGH162に属する酵素と構造を比較することで、TiCGSCyの2つの触媒残基を推定しました。また、これらの部位特異的変異体では、環化活性が顕著に低下、消失したことから、これらが触媒残基であることが明らかとなりました。これにより、TiCGSCyの属するCGSグループは新規な系統グループに属する酵素群であることが示唆され、新たなGHファミリーであるGH189を創設しました。

本研究成果をさらに発展させることにより、生理学的に重要な環状β-1,2-グルカンの合成法の確立や阻害剤の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、2024年2月1日に国際学術誌「Applied Microbiology and Biotechnology」にオンライン掲載されました。

研究内容の詳細

β-1,2-グルカンの環化に関わるメカニズムを解明~生理学的に重要な環状β-1,2-グルカン研究の進展に寄与~(PDF:0.8MB)

論文情報

【掲載誌】Applied Microbiology and Biotechnology
【論文タイトル】Functional and structural analysis of a cyclization domain in a cyclic β-1,2-glucan synthase
【著者】Nobukiyo Tanaka, Ryotaro Saito, Kaito Kobayashi, Hiroyuki Nakai, Shogo Kamo, Kouji Kuramochi, Hayao Taguchi, Masahiro Nakajima and Tomoko Masaike
【doi】10.1007/s00253-024-13013-9

本件に関するお問い合わせ先

広報事務室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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