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「てんかん」の発生を時間的?空間的にピンポイントで抑える画期的な治療法を開発-世界で初めてサルでの有効性を実証、臨床応用に向け大きく前進-

2023年03月01日 水曜日 研究成果

発表のポイント

  • 脳局所の神経細胞の異常興奮が広い範囲に伝播し、けいれんや意識消失などを引き起こす深刻な病気であるてんかん1)の画期的な治療法を開発。
  • スイッチのように働く人工受容体2)とそれにピンポイントに作用する独自開発の人工薬剤を用いて、症状が出たときにだけてんかん病巣の神経細胞の活動をオフにして症状を緩和するオンデマンド治療3)の有効性を検証。
  • 脳の大きさや複雑さがヒトに近く、同じ霊長類であるサルで治療効果が認められたことにより、臨床治療への応用に向け大きく前進。

量子科学技術研究開発機構(平野俊夫理事長、以下「量研」)量子生命?医学部門量子医科学研究所脳機能イメージング研究部(南本敬史グループリーダー、宮川尚久客員研究員)、および本学(川嵜圭祐准教授)、京都大学(高田昌彦教授、井上謙一助教)、東京都立神経病院(松尾健医長)、情報通信研究機構(鈴木隆文室長)らの共同研究グループは、化学遺伝学4)という手法を利用することで、てんかんの症状が発生した時にのみ神経活動を抑制するオンデマンド治療法を開発し、その有効性をサルモデルで実証することに成功しました。
てんかんは局所の神経細胞の異常な興奮が脳の広範囲に伝播し、けいれんや意識消失などの発作を引き起こす深刻な病気です。薬物療法や外科手術などの治療法は、時として正常な脳機能を阻害する可能性もあり、てんかん病巣のみに集中し、かつ発作時のみに作動して異常活動を抑えるようなオンデマンド治療が求められていました。
本研究では、遺伝子操作で導入した人工受容体とそれにのみ作用する人工薬剤を用いて神経活動を操作する化学遺伝学と呼ばれる手法を用いて、てんかんサルモデルにおけるてんかん発作の治療効果を検討しました。サルの一次運動野5)を仮のてんかん病巣と見立て、薬で異常興奮を引き起こすと、その活動が脳に広く伝わり全身性のてんかんが引き起こされます(前頭葉てんかんサルモデル)。この領域の神経細胞に人工受容体を導入し、薬剤で引き起こしたてんかん発生時に量研が独自開発した人工薬剤(デスクロロクロザピン;DCZ)6)を投与すると、わずか数分でてんかんの脳波と症状が抑えられることが確認できました(図1)。これまで化学遺伝学技術の脳疾患への治療応用はマウスなど小動物を対象とした研究に限られてきました。今回、ヒトと同じ霊長類で高度に発達した大きな脳をもつサルでその有効性を確認できたことは、今後の臨床応用に向け大きく前進する成果であるといえます。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)「脳とこころの研究推進プログラム(戦略的国際脳科学研究推進プログラム、国際脳)」?「脳科学研究戦略推進プログラム、脳プロ」並びにJSPS科研費における成果を一部活用したもので「Nature Communications」のオンライン版に2023年2月28日に掲載されました。

 


図1:本研究の概要

【用語解説】

1)てんかん
てんかんは、突然意識を失って反応がなくなるなどの「てんかん発作」を繰り返し起こす病気で患者数も100人に1人と、誰もがかかる可能性のあるありふれた病気のひとつです。「てんかん発作」は、脳の一部の神経細胞が突然一時的に異常な電気活動(電気発射)を起こすことにより生じますが、脳のどの範囲で電気発射が起こるかにより様々な「発作症状」を示します。しかし症状は基本的に一過性で、てんかん発作終了後は元通りの状態に回復することが特徴です。治療は適切な抗てんかん薬を服用することで、60~70%の患者さんでは発作は抑制され通常の社会生活を支障なく送れます。一方、抗てんかん薬では発作を抑えることができず、「難治性てんかん」として複数の抗てんかん薬の調整や外科治療などの専門的なてんかん治療を必要とする場合もあります(厚労省HP参照)。

2)人工受容体
本来生体内に存在する受容体(内因性受容体)に遺伝子変異を入れることにより作られた、人工の受容体。通常、神経細胞では内因性受容体に神経伝達物質(リガンド)が結合することで活動が変化します。一方、人工受容体は、生体内に存在するいかなるリガンドも結合せず、特定の人工リガンド(作動薬)のみが結合して神経活動が変化します。今回、神経細胞の「スイッチ」として導入した人工受容体は抑制性の(スイッチをオフにする)機能をもつものであり、本研究グループが開発した作動薬であるデスクロロクロザピン(DCZ)が結合します。

3)オンデマンド治療
症状が出そう、あるいは出たときにのみに薬を使い症状を抑えるという治療方法。

4)化学遺伝学(chemogenetics)
遺伝子変異等によって作られた人工受容体と、生体内に存在する受容体には作用しない人工の作動薬の組み合わせによって神経活動を操作する研究手法です。

5)一次運動野
左右の脳の比較的前方にある領域で、反対側の手足などの随意運動の発現に関わり、運動指令を出力します。

6)デスクロロクロザピン(Deschloroclozapine、略称DCZ)
人工受容体を作動させる、QSTが独自開発した人工薬剤の名称。作動薬としては、現在最も効果的です。詳細は2020年プレスリリース(量子科学技術研究開発機構)参照。

研究内容の詳細

「てんかん」の発生を時間的?空間的にピンポイントで抑える画期的な治療法を開発-世界で初めてサルでの有効性を実証、臨床応用に向け大きく前進-(PDF:0.9MB)

論文情報

【掲載誌】Nature Communications
【論文タイトル】Chemogenetic attenuation of cortical seizures in nonhuman primates
【著者】Naohisa Miyakawa, Yuji Nagai, Yukiko Hori, Koki Mimura, Asumi Orihara, Kei Oyama, Takeshi Matsuo, Ken-ichi Inoue, Takafumi Suzuki, Toshiyuki Hirabayashi, Tetsuya Suhara, Masahiko Takada, Makoto Higuchi, Keisuke Kawasaki, Takafumi Minamimoto
【doi】10.1038/s41467-023-36642-6

本件に関するお問い合わせ先

広報室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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