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筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子であるTDP-43に結合し、病的なTDP-43凝集体の形成を抑制する分子を発見

2022年01月17日 月曜日 研究成果

筋萎縮性側索硬化症(ALS)(注1)は、運動神経細胞(注2)の細胞死による運動機能の低下を主症状とする神経変性疾患です。TDP-43はALSの主要な原因遺伝子です。ALS患者の運動神経細胞では、TDP-43蛋白質(注3)が異常な凝集体を形成し、この凝集体が神経細胞に細胞死を誘導し、ALSが発症します。本学大学院医歯学総合研究科ウイルス学分野の髙橋雅彦准教授、藤井雅寛教授らの研究グループは、ストレスにさらされた細胞において、USP10蛋白質(注4)とG3BP1蛋白質(注5)がTDP-43に結合し、異常なTDP-43凝集体の形成を抑制することを発見しました。USP10の発現が低下した細胞では、TDP-43は細胞質内で不溶性の凝集体を形成しました。一方、ALS患者の脊髄病変部のTDP-43凝集体は、USP10陰性であり、USP10との結合を逃れたTDP-43が病的な凝集体を形成していることが示唆されました。

本研究成果のポイント

  • 細胞質のTDP-43はUSP10とG3BP1に結合した。この結合により、ストレス下のTDP-43は、細胞質の蛋白質凝集体であるストレス顆粒(注6)とアグリソーム(注7)に局在した。
  • RNA(注8)と結合できないTDP-43の変異体は、USP10/G3BP1に結合できなかった。USP10/G3BP1に結合できないTDP-43の変異体は、ストレス顆粒やアグリソームとは異なる、USP10/G3BP1陰性の異常な凝集体を形成した。
  • USP10の発現が低下すると、ストレス下のTDP-43は細胞質に不溶性の異常な凝集体を形成した。
  • ALS患者のTDP-43凝集体の多くはUSP10を含んでいなかった。

 

【用語解説】

(注1)筋萎縮性側索硬化症(ALS):
運動神経細胞の機能低下による筋萎縮と筋力低下を特徴とする神経変性疾患です。症状は急速に進行し、発症から死亡までの平均期間はおよそ3.5年です。
(注2)運動神経細胞:
脳や脊髄に存在し、神経突起を筋肉に延ばし、脳や脊髄からの指令を筋肉に伝える神経細胞です。
(注3)TDP-43蛋白質:
家族性および弧発性ALSの原因遺伝子です。RNAに結合し、スプライシングなどのRNAの機能に関与しています。TDP-43蛋白質は通常は核内に発現していますが、ALS患者の神経細胞では、細胞質内に凝集体を形成しています。このTDP-43の凝集体が、ALSを発症させると考えられています。
(注4)USP10蛋白質:
脱ユビキチン化酵素活性を持つ蛋白質の1つです。脱ユビキチン化酵素は蛋白質に付加されたユビキチンを除去します。ユビキチンは76個のアミノ酸からなる蛋白質です。ユビキチンが付加された蛋白質は蛋白質の機能が変化します。例えば、ユビキチン化された蛋白質は、プロテアソームやオートファジーによる蛋白質分解を受けやすくなります。また、ユビキチン化された蛋白質はシグナル伝達にも関与します。
(注5)G3BP1蛋白質:
RNAに結合する蛋白質で、ストレス顆粒の形成に必須です。
(注6)ストレス顆粒:
種々のストレスやウイルス感染などにより、細胞質内に形成されるRNAと蛋白質の複合体です。細胞死を阻害する活性や抗ウイルス活性を持ちます。
(注7)アグリソーム:
細胞の蛋白質分解活性が低下したときに、細胞質の中心体の近くに形成されるユビキチン化蛋白質の凝集体です。
(注8)RNA:
RNAはリボースを糖成分とする核酸です。mRNA(メッセンジャーRNA)はDNAから読み取られた遺伝子情報をもとに蛋白質合成を行います。

研究内容の詳細

筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子であるTDP-43に結合し、病的なTDP-43凝集体の形成を抑制する分子を発見(PDF:351KB)

論文情報

【掲載誌】Molecular and Cellular Biology
【論文タイトル】USP10 inhibits aberrant cytoplasmic aggregation of TDP-43 by promoting stress granule clearance
【著者】Masahiko Takahashi, Hiroki Kitaura, Akiyoshi Kakita, Taichi Kakihana, Yoshinori Katsuragi, Osamu Onodera, Yuriko Iwakura, Hiroyuki Nawa, Masaaki Komatsu, Masahiro Fujii
【doi】10.1128/MCB.00393-21

本件に関するお問い合わせ先

広報室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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