植物の地下での情報のやりとりを発見~地下茎で繋がった植物株間でのコミュニケーション~
国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学大学院生命農学研究科の榊原均教授らの研究グループは、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所、島根大学、新潟大学、東京大学、理化学研究所環境資源科学研究センターとの共同研究で、地下茎で繁殖するイネ科植物が、地下茎を介した情報のやりとりにより、不均一な窒素栄養環境に巧みに応答して成長する仕組みを新たに発見しました。
植物の中には種子による繁殖ではなく、竹や芝のように地下茎の分枝?伸長により繁殖する種が存在します。このような植物の群落では、成長する幾本もの株(ラメット注1))は、地下の地下茎注2)で繋がっています。しかし、このラメット間の地下茎を介した情報のやりとりの実体についてはほとんど分かっていませんでした。
本研究では、栄養繁殖注3)をする野生イネ(オリザ?ロンギスタミナータ)のラメットが、不均一な窒素栄養条件に晒された場合、窒素欠乏側のラメットからの情報を受けて、窒素十分側のラメットで相補的に多くの窒素を吸収?同化し、窒素十分側のラメットの成長を優先させることで、群落として巧みに応答する仕組みを明らかにしました。
このことは、複雑な環境下で生き延びる植物の振る舞いの一端を明らかにしたもので、植物バイオマスの生産性向上などへの応用が期待されます。
本研究成果は、2022年2月4日午前9時(日本時間)付アメリカ植物生物学会の学会誌「Plant Physiology」に掲載されました。
本研究は、日本科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(JST CREST)および文部科学省科学研究費助成事業新学術領域研究「植物多能性幹細胞」の支援のもとで行われたものです。
本学の共同研究者
大学院自然科学研究科 岡本暁 助教
ポイント
- 不均一な窒素栄養条件では、窒素不足側からの情報を受けて、豊富側ラメットで窒素の吸収?同化に関わる一連の遺伝子の発現が相補的に上昇する。
- 窒素豊富側から不足側への窒素の分配は限定的で、豊富側ラメットの成長が優先される。
- 2種類の情報分子「サイトカイニン注4)」と「CEP1ペプチド注5)」が、この制御機構に協調的に関わっている。
【用語説明】
注1)ラメット:
栄養繁殖を行う植物において、葉と茎からなる地上茎と根からなる植物体のこと。ラメットは地下茎などにより連結されており、一つの親ラメットに由来する群落は、遺伝的に同質である。
注2)地下茎:
地中で伸長する茎。一般的な地下茎は、地上茎と同様に節と節間、腋芽からなる単位(ファイトマー)から構成される。地下を伸長後、一部は地上部に現れ、地上茎化(光合成機能の獲得)して新しいラメットを形成する。
注3)栄養繁殖:
植物の生殖様式の一つで、受精による胚?種子の形成を経由せずに根、茎や葉などの栄養器官から、次世代の植物が形成されることで増殖する繁殖様式のこと。
注4)サイトカイニン:
植物のシュートや腋芽の成長促進、葉の老化抑制などの作用を持つ植物ホルモン。窒素栄養の供給に応答して生合成が促進される。活性の強いトランスゼアチンは主に根で合成され、地上部に輸送され作用する。
注5)CEP1ペプチド:
15アミノ酸からなるホルモン様ペプチド。シロイヌナズナでは、不均一な窒素栄養分布に応答した硝酸イオン吸収の全身的制御機構において、根から葉へのシグナル分子として働く。
研究内容の詳細
植物の地下での情報のやりとりを発見~地下茎で繋がった植物株間でのコミュニケーション~(PDF:481KB)
論文情報
【掲載誌】Plant Physiology
【論文タイトル】Regulation of ammonium acquisition and use in Oryza longistaminata ramets under nitrogen source heterogeneity
【著者】Misato Kawai, Ryo Tabata, Miwa Ohashi, Haruno Honda, Takehiro Kamiya, Mikiko Kojima, Yumiko Takebayashi, Shunsuke Oishi, Satoru Okamoto, Takushi Hachiya, Hitoshi Sakakibara
【doi】10.1093/plphys/kiac025
【URL】https://academic.oup.com/plphys/advance-article/doi/10.1093/plphys/kiac025/6521044
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