ネフローゼ症候群の新しい治療標的(FKBP12)を同定-タクロリムスの新規薬効機序を解明-
本学大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎分子病態学分野の安田英紀助教、福住好恭准教授、河内裕教授らの研究グループは、タクロリムス(FK506)(注1)の新規薬効機序を解明し、高度のタンパク尿を示す疾患であるネフローゼ症候群の新しい治療標的を同定しました。難治性ネフローゼ症候群は現在も有効な治療法がなく、新規治療薬の開発が急務となっています。免疫抑制薬であるタクロリムスは、タンパク尿抑制作用を持つことが示されていますが、その薬効機序は不明でした。本研究は、タクロリムスと結合性を持つ分子であるFKBP12(注2)が腎糸球体上皮細胞(ポドサイト)(注3)の細胞骨格の制御に重要な役割を果たしていること、タクロリムスはFKBP12の機能を安定化させる作用によりポドサイト障害、タンパク尿を抑制することを示し、FKBP12の安定化がタンパク尿の治療戦略として重要であることを明らかにしました。
本研究成果はポドサイト障害の発症機序の解明、新規タンパク尿治療法開発への貢献が期待されます。この研究成果は、FASEB Journalに掲載されました。
本研究成果のポイント
- 免疫抑制薬であるタクロリムス(FK506)は、タンパク尿抑制作用を持つことが示されていますが、ポドサイトに対する薬効機序は不明でした。
- 本研究は、タクロリムスと結合性を持つ分子であるFKBP12がポドサイトの細胞骨格の制御に重要な役割を果たしていること、タクロリムスはFKBP12の機能を安定化させる作用によりポドサイト障害、タンパク尿を抑制すること、FKBP12の安定化がタンパク尿の治療戦略として重要であることを明らかにしました。
- ポドサイト障害の発症機序の解明、新規タンパク尿治療法開発への貢献が今後期待されます。
【用語解説】
(注1)タクロリムス(FK506):
タクロリムス(FK506)は細胞内でFKBP(FK506 binding protein)と複合体を形成し、この複合体が脱リン酸化酵素であるカルシニューリンの作用を阻害する。活性化T細胞ではカルシニューリンが活性化するがタクロリムスはこれを抑制することにより免疫抑制効果を示す。臓器移植後の拒絶反応抑制薬として広く利用されている。潰瘍性大腸炎、ループス腎炎、アトピー性皮膚炎などにも使用されている。
(注2)FKBP(FK506 binding protein)12:
タクロリムス(FK506)の結合分子として同定された分子。酵母からヒトまで多くの真核生物に発現しており、タンパク質フォールディングシャペロンとして機能していることが報告されているがその生理機能は十分に解明されていない。
(注3)腎糸球体上皮細胞(ポドサイト):
腎臓の濾過装置である糸球体を構成する3種の細胞の1つで、糸球体の最外層に位置し、糸球体の形態の維持、糸球体のバリア機能の維持において最も重要な役割を果たしている細胞。絡み合う突起構造を持つ細胞で、この特徴的な構造を維持のための細胞骨格の機能は解明されていない。神経細胞や心筋細胞と同様、生体内で最も分化した細胞の1つで増殖能を持たない。
研究内容の詳細
ネフローゼ症候群の新しい治療標的(FKBP12)を同定:タクロリムスの新規薬効機序を解明(PDF:876KB)
論文情報
【掲載誌】FASEB Journal
【論文タイトル】Tacrolimus ameliorates podocyte injury by restoring FK506 binding protein 12 (FKBP12) at actin cytoskeleton
【著者】Hidenori Yasuda, Yoshiyasu Fukusumi, Veniamin Ivanov, Ying Zhang, Hiroshi Kawachi
【doi】10.1096/fj.202101052R
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