がんの悪性化における窒素代謝の変化を解明しました -難治性がんの新たな治療標的PPATを発見-
本学大学院医歯学総合研究科の松本雅記教授と九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、医学系学府博士課程4年の小玉学大学院生らの研究グループは、次世代プロテオミクス技術であるiMPAQTシステムを駆使したがん代謝解析から、悪性のがんではグルタミン由来の窒素をDNAの合成に利用するための代謝系が亢進していること(窒素シフト)を明らかにしました。
炭素と窒素は生体の主要な構成要素であり、それぞれ主にグルコースとグルタミンという二大栄養素から供給されます。がん細胞では炭素源であるグルコースを嫌気的に代謝する「ワールブルグ効果」が亢進していること(炭素シフト)が約100年前から知られていました。一方で、がん細胞は盛んに増殖しているので、窒素を含むDNAを多量に作る必要がありますが、今まではがん細胞がどのようにグルタミンからDNAに窒素を効率よく配分しているのかは不明でした。
そこで本研究グループは、独自に開発したiMPAQTシステムを用いて、がん細胞の悪性化に伴う代謝酵素の発現変化を追跡しました。その結果、悪性化したがん細胞では、グルタミンの窒素をDNAの前駆体に転移するPPATという代謝酵素が高発現しており、それによって生じるグルタミンからの窒素代謝シフトが、がんの悪性化の過程に必須であることを明らかにしました。更に公共データベースに登録されている11,000人のがん患者のメタアナリシスから、PPATが約1200種のヒト全代謝酵素の中で最もがん患者の死亡リスクを高める因子であり、特に小細胞肺がんをはじめとした難治性がんを治療する上で有望な標的になることを世界に先駆けて発見しました。これらの成果は、現在治療が困難とされている小細胞肺がんをはじめとした難治性がんに対して、PPATの阻害薬(現在開発中)が効果的な治療法となる可能性を示しています。本研究成果は、2020年3月17日(火)(米国東部時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」で公開されました。
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