ユーラシア大陸の気候メモリ効果が北極温暖化に伴う冬の寒波を強める~長期気候変動におけるフィードバックメカニズムの一端を解明~
本学大学院自然科学研究科の浮田甚郎 教授、北海道大学大学院地球環境科学研究院の中村哲 博士研究員、山崎孝治 名誉教授、佐藤友徳 准教授の共同研究グループは、温暖化時の北極海の海氷減少を想定した気候変化のシミュレーションを行い、陸域の土壌温度や積雪を介したメモリ効果の寄与を定量的に見積もる手法を開発しました。海氷減少は近年増加傾向にある中緯度の寒波の一因であると指摘されていますが、本研究により、寒波の記憶がユーラシア大陸に蓄積されることで、翌冬、翌々冬の寒波をさらに強めるという、増幅(フィードバック)効果を持つことがわかりました。このメモリ効果は、海氷減少によって生じる寒波の強さを約2倍に強めます。
本研究では、陸域のメモリ効果がどのような物理的プロセスで生じているのか、詳細に調べました。日本で強い寒波が発生する際には、ユーラシア大陸全域が寒冷で、積雪が多い傾向があります。多量の積雪が春の雪解けの時期を遅くすることで、日射による地面の温度上昇が妨げられ、寒冷なシグナルが土壌温度に記憶されます。夏場の大気状態の影響を受けにくい土壌温度の寒冷なシグナルは秋まで持続し、初冬の積雪時期を早めます。積雪は日射を強く反射して地面付近が温まることを妨げるため、早い冬の到来となり、強い寒波が形成されやすくなります。このような季節サイクルの繰り返しが蓄積されることで、持続的に強い寒波をもたらす気候状態を作り出しています。
急速な温暖化が進む北極と、その影響を受ける中緯度の気候変化の予測には、大きな不確実性があるとされています。本研究の成果で得られた陸域のメモリ効果は、一旦ある方向に向かった気候状態をさらに推しすすめるような正のフィードバック効果があることを示しています。陸域の状態を調べることで、長期的な傾向の予測に役立つことが期待されます。
本研究は、文部科学省北極域研究推進プロジェクト「ArCS: Arctic Challenge for Sustainability Project」、及び科学技術振興機構「ベルモント?フォーラムCRA InterDec」の一環として行われ、Nature Communications誌にて、2019年11月8日(金)日本時間19時にオンライン公開されました。
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