超域学術院の関澤一之特任助教が,2017年度(第12回)中村誠太郎賞を受賞しました
研究推進機構超域学術院の関澤一之特任助教が,2017年度(第12回)中村誠太郎賞を受賞しました。
同賞は,素粒子奨学会(協賛:湯川記念財団)が授与する単著の論文を評価する賞で,原子核理論?宇宙物理理論を含む広い意味での素粒子論分野の若手研究者を奨励するという目的で設立されたものです。この賞の前身である「読売湯川奨学生」?「素粒子奨学生」から,ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏をはじめ,世界の物理学に大きな貢献をした多くの人材を輩出している,由緒ある賞です。
3月25日(日)には,日本物理学会第73回年次大会(東京理科大学野田キャンパス)において,受賞講演および授賞式が行われました。
受賞した論文
論文の概略
原子核は,原子の中心に存在する小さな物体で,陽子と中性子から構成されています。原子核物理の分野では,原子核を陽子の数と中性子の数によって分類し,その一つひとつを“核種”と呼んでいます。地球上に安定に存在する核種は288種あることが知られています。実験技術の発達に伴い,地球上に天然には存在しない不安定な原子核を人工的に生成しその性質を調べることが可能となり,これまでに約3000種の不安定な核種が発見されました。一方で,理論的には約7000種以上存在することが示唆されており,それによるとまだ半分以上の核種が未発見のままであるということになります。これらの不安定核の性質を理解することは,我々の宇宙に存在する元素の起源を解き明かす上でも重要であると考えられており,原子核物理の重要課題の一つとして,世界中で研究が精力的に進められています。
不安定核は,加速器を用いて2つの原子核を衝突させること(核反応)により生成することが可能です。しかし,どの原子核を入射核と標的核に選び,どのようなエネルギーで衝突させれば目的の不安定核を生成できるのかということは自明ではなく,理論的な予測が不可欠です。受賞論文では,核反応のダイナミクスを構成粒子の自由度から量子多体理論に基づいて記述する方法と,反応によって生成された熱い原子核が冷える過程を記述する統計的手法を組み合わせた理論的枠組みを提案しました。実験データとの詳細な比較から,本手法を用いることにより,量子多体理論に基づいて非経験的に,反応後にどの原子核がどれだけ生成されるのか,数値的にシミュレーションできることが示されました。今後,未知の不安定核を生成する最適な反応条件を明らかにすることができれば,将来の実験の動向にも波及する成果が上げられると期待されます。
論文受賞に至るまでの経緯についてはこちらをご覧ください。(「原子核研究, Vol. 62, No. 2, pp.1-6 (2018)」)
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