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素粒子ニュートリノを探究し宇宙の謎に迫る
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淺賀 岳彦 教授自然科学系(理学部) Profile博士(理学)。専門は素粒子物理学。 |
素粒子の性質から宇宙の歴史を読み解きイノベーション創出の下地を築く
物質を極限まで細かくしていったときに現れる、原子よりも小さい「素粒子」。
世の中に存在するすべての物は素粒子が集まることで構成されている。淺賀岳彦教授は、物質の最小構成単位である素粒子の性質や運動法則を理解し、それをもとに宇宙の誕生と進化の解明を目指す。
「宇宙の組成を調べてみると、人類が認識している物質は全体の約5パーセントにすぎず、ダークマターや消えた反物質など、大部分はいまだベールに包まれています。今から約138億年前、誕生直後の宇宙では素粒子反応が活発に行われていました。万物を構成する基本的な要素は何なのか、どのような法則に支配されているのかを研究しています」
素粒子の地上実験では巨大な加速器で物質をバラバラにし、採取した粒子の性質を調べている。研究を進めていく中で着目したのが、電荷がなく弱い力でしか相互作用しない「ニュートリノ」という素粒子。これまでは質量を持たないとされていたが、1998年に日本の物理学者?梶田隆章氏によって質量を持つことが証明された。
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素粒子現象論?統一理論に関する滞在型国際研究会「Summer Institute」を開催(富士吉田市)
「素粒子物理学では『標準模型』と呼ばれる理論をもとに研究や実験が行われてきました。しかし、科学の進歩や新しい研究によってその理論では説明できない現象が生じてきました。そのひとつが梶田先生が発見したニュートリノの質量問題です。我々は理論を根本的に見直し、新たな素粒子統一理論を構築することを目指しています。そしてそれが未知の領域を明らかにする糸口になるのではと考えています」
長期的なスパンで未来を見据えた際、基礎研究を続けていくことが人類の幸せにつながると淺賀教授は研究の意義を口にする。
「宇宙の謎と日常生活との接点、と聞くとピンとこないかもしれませんが、技術革新には知の蓄積が必要不可欠になってきます。今や当たり前となった衛星測位システム(GNNS)は、アインシュタインが提唱した『一般相対性理論』の考えが反映されています。我々の研究は、宇宙の本質を調べることでイノベーションを生み出す下地を作り、長期的な視点で結果的に人類の進歩や繁栄に貢献できればと思っています」
現在、淺賀教授が2005年に提唱した仮説を検証する実験に向けたプロジェクトが進行している。小さな素粒子が大きな宇宙にどのような影響を及ぼすのかを知ることは、未来を築いていくための重要なピースになるに違いない。
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素粒子ニュートリノの質量起源を重力波観測から探る。Physics Letters B 814(2021)136074より転載