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人間らしい知性をもたらす大脳の神経メカニズム

季刊広報誌「六花」

長谷川 功 教授

大学院医歯学総合研究科(医)

Profile

博士(医学)。専門は神経生理学。
視覚認知を柱とする大脳連合野の神経メカニズムについて研究。

大学院医歯学総合研究科(医) 長谷川 功 教授

高次認知機能と神経活動の関係性に迫り 新たな医療技術の創造に貢献

私たち人間には物体を視覚認知したり、言葉や文字から得た情報をもとに行動を起こすといった「人間らしい知能」が備わっている。長谷川功教授は、記憶や言語、社会性などの人間らしい知能と、脳の神経細胞の活動がどのようにリンクしているか生理学の観点からアプローチを進める。

「『人間らしい知能がいかにして脳の神経回路の動作により生じるか』ということは生命の神秘であり、その全貌はいまだ解明されていません。ヒトは大脳連合野の発達によって言語や社会認知能力が著しく発展しました。脳の神経活動と記憶、思考、言動にはどういった相関関係があるのか、そしてその活動を操作することでどのような影響が見られるのかを研究しています」

研究では、視覚認知や記憶の能力が高く、ヒトに近縁とされているマカクザルを対象とした動物実験を実施。神経活動のメカニズムを解析するとともに、ヒト以外の霊長類にはどの程度の高次認知機能が備わっているのか検証を行っている。

霊長類動物モデルを用いた脳活動記録実験
霊長類動物モデルを用いた脳活動記録実験
脳の表面から単一細胞活動記録より低侵襲的に、脳波より高感度で神経活動を記録する、皮質脳波法のスキーマ
脳の表面から単一細胞活動記録より低侵襲的に、脳波より高感度で神経活動を記録する、皮質脳波法のスキーマ

「広範囲に及ぶ脳のネットワークとしての性質を調べるために有効な『メッシュ状電極』を開発し、それを用いた実験から側頭葉にある顔を認知する細胞と、文字の認知に関わる脳の応答部位が交互に配列していることを発見しました。また、『こころの理論』と呼ばれる他者の考えや気持ちを類推し理解する能力が、非ヒト霊長類にもあるのかを精神科医らと共同で調査しています。こころの理論は内側前頭皮質の神経活動によって支えられており、サルにもヒトと相同の脳基盤に基づく能力があることを実証しました。ヒトを直接対象とした実験が容易ではない中、ヒト以外の動物で高次認知機能を調べられたということは非常に価値があります」

長谷川教授は、脳の神経活動と高次機能との因果関係に迫っていくことも重要であり、それが将来の医療発展やコミュニケーション支援に繋がると考える。

「我々の目的は脳の正常な働きを解き明かすこと。そこが明確になれば異常が起こった際、どこが変化したのか見つけ出せます。さらに心のメカニズムを理解することで、精神?神経疾患の克服に向けた道筋を作り出せればと考えています」

自閉症の治療法開発や意思決定の支援など、あらゆる可能性を生むためのベースとなる長谷川教授の研究。今後も注目していく必要がありそうだ。

霊長類の進化系統樹。マカクザルはヒトに最も近縁な実験科学のモデル動物
霊長類の進化系統樹。マカクザルはヒトに最も近縁な実験科学のモデル動物
ペアとして連想学習した図形は、内側側頭葉において類似したシータ波の空間パターンを生じるようになる
ペアとして連想学習した図形は、内側側頭葉において類似したシータ波の空間パターンを生じるようになる

 

六花 第35号(2020.WINTER)掲載

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