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システム、リスク、イノベーションの概念を軸に現代の科学技術を歴史的に分析
佐藤 靖 教授人文社会科学系 Profile博士(科学社会学?科学技術史)。 |
異なるアプローチの研究を組み合わせより総合的な現代科学技術史像を示す
2010年代に入ってから、人工知能(AI)やゲノム編集技術?合成生物学など人間や社会のあり方を揺るがしかねない科学技術が広く普及し、これからの高度科学技術社会の行方がいったいどうなるのか、関心をもつ人が増えている。
「確かに最近、科学技術の進化のスピードは以前にも増して速くなっているようにも感じますが、その性格や方向性を冷静に見定めるためには歴史的なアプローチが重要です。なぜなら、現在の科学技術は長年にわたる各国の政府や企業などからの資金投入により築かれ、その影響下で形成されてきたものだからです。特に第2次世界大戦後の科学技術史を考えるとき、米国連邦政府が果たしてきた役割は大きいものがあります」
第2次世界大戦後の科学技術の展開における6つの大きな流れとその時代背景 |
2018年8月に開催された国際科学技術社会論学会の会場(シドニー国際会議場)にて |
米国連邦政府は、時代の環境変化に応じて科学技術の方向性に影響を与えてきた。東西冷戦下では軍産複合体の形成を支え、原子力?宇宙?コンピュータ分野で巨大化?複雑化するシステムを創り出した。だがその後、デタントや冷戦終結を経てグローバル化が進展してくると、国際水平分業化やデュアルユース化(軍民両用化)を推進し柔軟なネットワーク型の科学技術への移行を促進する。
「科学技術には様々なリスクも伴いますが、1960年代末以降、原子力発電所や化学物質などのリスクに社会的関心が集まると米国連邦政府は定量的なリスク評価の手法の導入を進めます。しかし1990年代以降、科学技術が社会により深く組み込まれるようになると市民や利害関係者との議論をも重視したリスク対応になっていきます。経済的な観点からは、1970年代後半以降の米国で、産業競争力の強化が重要な政治的課題になったときや、2000年代後半以降の多極化の時代には、連邦政府のイノベーション重視の姿勢が強くなり科学技術のもつ経済的ポテンシャルの具現化を目指すようになります」
このような現代科学技術に関する歴史研究は、これまで軍事?政治史、科学技術社会論(STS)、経営史の大きく3つの異なる学問的アプローチからなされてきた。佐藤靖教授は、こうした異なるアプローチからの研究成果を組み合わせることで、より統合的な現代科学技術史像を示すことができないかと研究を進めている。
現在の科学技術の全体的傾向とその経済社会的背景 |
近年研究した内容をまとめ発刊した書籍 |