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脳の発達を支配する遺伝子の働きの一端を解明!

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医学部生化学第2教室の五十嵐道弘教授を中心とする研究グループは,このほど,脳の神経細胞ネットワークが構築される際に重要な役割を占める成長円錐※1について,その蛋白質群を多数同定することに成功。成長円錐の機能を支配する遺伝子群を一括して明らかにしました。これは脳の発達を支配する遺伝子の働きの一端を解明したものと高く評価され,学術論文として米国科学アカデミー紀要(PNAS)10月6日号及びインターネット版(9月28日付け)に掲載されました。
※1発達期の神経細胞の先端に形成される運動性に富んだ構造

学術論文名

「神経成長円錐の機能的分子マーカー群の同定」

研究概要

脳の神経細胞ネットワークの基本的枠組みは遺伝子のプログラムに従って,発生の際に自動的に出来上がる。この仕組みに必須の役割を果たすのが,成長円錐と呼ばれる,発達期の神経細胞の先端に形成される運動性に富んだ構造である。成長円錐の機能は古くから非常に注目されていたが,どのような遺伝子がその機能を支配?調節しているのか,ほとんどわからなかった。
今回,同研究グループは,プロテオミクス(注1;首都大学東京(礒辺俊明教授のグループ)との共同研究)に基いて,成長円錐に存在する蛋白質を900種類以上同定し,その中で特に成長円錐に強く濃縮され(選択的に局在し),その機能が神経成長に必須である蛋白質群を17種類同定することに成功した。成長円錐の機能を支配する遺伝子群を一括して明らかにした今回の研究は,「脳の設計図」とも言うべき,脳の発達を支配する遺伝子の働きの一端が解明されたことを意味し,今後の研究の発展が大いに期待される。

(注1)ある系(細胞、臓器など)に存在する蛋白質を網羅的に、できるだけ数多く同定する方法。質量分析装置の発達が貢献し、これに関与した田中耕一氏が2002年にノーベル化学賞を受賞した。

研究の意義

脳梗塞等や外傷で神経損傷が回復しにくいのは,成長円錐様構造が成人の神経細胞で損傷後に維持されないためと考えられており,これらの分子群の働きを変えることで神経損傷からの修復機構への寄与が期待しうる。また脳の可塑性(注2)との関連で,脳が新しい内容を記憶?学習する際に,新しいシナプス(注3)が形成される場合があり,その際にも関係するものが含まれている可能性がある。

(注2)脳が刺激に応答して,その機能が変化する性質のこと。学習によって脳の機能が向上したり,記憶が蓄積されるのも,脳のこの性質による。
(注3)神経のネットワークの実体となる,神経細胞同士のつながりのこと。成長円錐が標的の神経細胞まで伸びていって,シナプスが出来上がる。ここで伝達の効率が変化することが,神経の可塑性の実体だと説明されている。

イメージ:われわれが今回発見した、成長円錐の機能を支配する分子群

今回新たに発見された「成長円錐の機能的分子マーカー」=「神経成長関連タンパク質群」(nGAPs)17種類は、すべて成長円錐に強く濃縮されている(紫色)。RNA干渉法で神経成長が抑制されることを別の方法で確かめている。緑色は微小管を表している。紫色と緑色の重ね合わせで、これらのタンパク質が成長円錐に特異的に強く濃縮されていることがわかる。

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学術誌:『米国科学アカデミー紀要』とは?

米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:略称PNAS)は,1914年創刊の全米科学アカデミー発行の学術誌である。特に生物科学?医学の分野でインパクトの大きい論文が数多く発表され,総合学術雑誌として,ネイチャー、サイエンスと並び重要とされている(総引用回数第2位)。
米国科学アカデミーは,高いレベルの学問的業績を残した世界の研究者(米国2,100名;米国以外350名[日本在住の日本人学者30名を含む])が会員に選出さていれる。PNAS誌は投稿された論文が,アカデミー会員の高い学問的見地から見て世界的に紹介するインパクトが高いと判断された場合のみ掲載される。
一般に引用回数を数値化したものとして使われるインパクトファクターは9.38です。