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新潟大学朱鷺プロジェクト
平成20年9月25日、27年ぶりに佐渡の空に10羽のトキが羽ばたき、とりもなおさず、日本におけるトキの野生復帰が大きな一歩を踏み出しました。それに呼応し、新潟大学では、地域に根ざす大学として、超域研究機構の研究プロジェクトで、「トキをシンボルとした総合的な地域再生に関する研究のプロジェクト」を立ち上げました。
プロジェクトの目的?目標
このプロジェクトは、試験放鳥により新たな展開をむかえた佐渡島におけるトキ野生復帰を支援、実現させることで、トキとの共生を軸にした佐渡島の未来像を探ることが目的です。その未来像は、21世紀の自然、社会システム再生の目標モデルになります。そのために、里地里山の再生、循環型地域社会の構築を通した生物多様性の保全をキーワードに、新の意味での共生とは何かを探っていく必要があります。
研究プロジェクトの特色
トキの試験放鳥により、生物多様性の保全、そのための里地里山の再生、循環型地域社会の構築をキーワードとして進められてきたトキの野生復帰は、地道で継続的な取組に向けた本格的なスタートをきりました。野生絶滅したトキを野生復帰させるということは、トキが生息できる里地里山の半自然生態系の機能を、生物多様性保全の視点から永続的に維持管理し、保障することを意味します。さらに、トキの野生復帰は、人間活動の変化により、多くの絶滅危惧種が生育?生息する日本の里地里山の再生モデルを世に問う意味合いを強く持っています。そのため、佐渡島における循環型社会の構築は、里地里山が分布する中山間地の今後のあり方を見定める試金石となります。このような状況のもと、新潟大学は、地域基幹大学としてトキが野生復帰し、自立して生息できる自然?社会環境づくりを将来的に支援していくことを、地域住民、あるいは佐渡市?新潟県などの地方行政組織から、強く期待されています。そこで、本プロジェクトは、トキをシンボルとして、自然再生とそれを受け入れる地域社会創りの具体的なシナリオを「佐渡モデル」として世界に発信することを目的としています。
これまでの研究実績
トキの野生復帰に向けた本学教員の取り組みとして、農学部附属フィールド科学教育研究センターが主体となるトキプロジェクトと、学外研究機関との連携プロジェクト「環境省トキの島再生プロジェクト」があります。前者のトキプロジェクトでは、主に、試験放鳥の地理的核となる旧新穂村キセン城に放棄されていた約100枚の棚田(30ha)を再生整備し、トキの採餌環境創出を図るとともに、餌生物を持続的に産生するビオトープ管理手法を検討、確立しました。後者の環境省トキの島再生プロジェクトでは、エサ場となる水田や河川環境、あるいは営巣環境となる森林環境などの基盤情報をGISでデータベース化した上で、当該プロジェクトで構築されたトキの好適生息環境予測モデルと餌量推定モデルをもとに、佐渡島全域にわたる景観レベルでの自然再生プログラムを立案しました。
研究の意義?重要性
世界的に自然環境の劣化が進む中、生物多様性に関する条約の締結にもかかわらず、地球上の生物多様性は低下の一途をたどっています。特に野生絶滅、地域個体群の絶滅が生じた場合、生息環境の保全にとどまらず、絶滅種の復元が必要となります。絶滅種あるいは個体群の復元の試みは、世界各地で様々な生物種で行われてきましたが、その多くは成功にいたっていません。現在進めているトキの野生復帰が成功した場合、数少ない復元事例として世界的にも注目されます。また、トキの野生復帰は、20世紀型の効率を追求した社会システムにより崩壊した里地?里山生態系や循環型社会を、科学的知見に基づいて再生するモデルとなり、疲弊した中山間地の再生?活性化ビジョンの作成に大きく貢献できます。
研究プロジェクトを遂行することで期待される成果
本プロジェクトを通し、実現可能な自然?社会再生のシナリオを立案、提案するとともに、環境省トキ野生復帰専門家会合座長の山岸哲 新潟大学特任教授?山階鳥類研究所所長(プロジェクトリーダー)を核とし、佐渡市?新潟県?環境省との官学連携体制をより強化することで、自然再生を効率的に推進できます。また、中国?韓国等との共同研究も視野に入れ、野生絶滅したトキの復元をシンボルにした、絶滅が危惧される種の保全を軸とした自然再生学の国際的教育研究組織を編成することを目指します。
プロジェクトの展開
新潟大学発、総合科学としての「自然再生学」の発信をめざします。